日本より海外が重要? なぜ日本メーカー、新型車を北米などで先行発売するのか 弊害も

公開 : 2019.10.27 05:50  更新 : 2021.10.22 10:17

日本メーカーなのに、海外で先に発売するクルマが増えてきました。理由を探ります。また海外先行を続けると、日本市場のユーザーに決定的な問題が生じることもわかりました。安心して気持ち良く買える配慮が必要です。

日本よりも海外で先に発売される日本車、増

text:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)

日本の自動車メーカーは世界有数の大企業で、日本よりも海外で売れ行きを伸ばす。ダイハツを除くと、世界生産台数の80-90%が海外で売られている。

そのために日本国内だけで販売される商品は、乗用車では軽自動車程度に限られるようになった。小型/普通車は大半が海外との併売だ。

日産ジューク。日本発売の予定は今のところない。
日産ジューク。日本発売の予定は今のところない。

そうなると日本と海外で、発売時期が異なる車種も生じる。以前はまず日本で発売して、その後に海外で売り始めることが多かったが、最近は順番が逆になる車種もある。海外の後に日本で発売する。

例えばホンダアコードは、ホンダのホームページを見ると、10代目が2020年初めに日本でデビューすると告知されている。

これだけ見れば新型車のアピールだが、10代目アコードは、既に2017年10月に北米で発売されている。

この後、南米や中国での発売を経て、2年以上を経過してから日本国内で売り始めるのだ。

スバルレガシィは新型となる7代目の北米仕様が2019年7月に生産を開始した。日本仕様もフルモデルチェンジを行うと思われたが、日本では同年9月に一部改良を実施している。

新しいグレードやボディカラーの追加、悪路走破力を高めるXモードの性能向上なども行われたから、国内では少なくとも1年間は現行レガシィを売り続けるだろう。

日産ジュークは2019年9月4日に欧州で新型を発表した。ジュークのようなコンパクトSUVは日本でも人気のカテゴリーだから、フルモデルチェンジが期待されるが、メーカー、販売店ともに予定はないという。現行ジュークの生産を終了する話も聞かれず、しばらくは現行型を売るようだ。

フルモデルチェンジではなく、新規発売では、ジェイドに時間差が生じた。中国では2013年に発売したが、日本では2015年となっている。

日本車でありながら、なぜ国内の発売が海外に比べて遅れてしまうのか。その理由を探ってみたい。

売りにくいセダン/ワゴン、開発も海外優先

アコード、レガシィ、ジューク、ジェイドなどが海外で先に発売された理由を開発者に尋ねると、「世界の市場戦略に基づく」という曖昧な返答をされることが多い。

要は優先順位の話だ。海外の発売を優先させれば、日本と同じタイミングでデビューさせるのに比べて、発売時期を早められる。

ホンダ・アコード
ホンダ・アコード

アコードやレガシィは、まず北米で発売して、売れ行きを早期に伸ばしたい。日本はその後で良いという考え方だ。

国内も海外も基本的には同じクルマを売るが、右/左ハンドル、搭載される装備やエンジンチューニングなどの違いなどもあり、地域に応じて異なる開発をするには相応の時間を要する。

そこで優先順位を決めるわけだ。

発売時期の格差には、生産拠点や調達の事情も影響を与える。今は原材料やパーツを海外で調達して、海外の工場で生産される日本車も多い。

こうなるとすべて海外の都合で進められるから、日本と足並みをそろえるのは難しい。日本と海外を連携させる必要も薄れる。

そして以前から「日本は特殊な市場だ」と述べる開発者が多い。新車として売られるクルマの40%近くを国内専売の軽自動車が占めて、海外でほとんど売られない3列シートミニバンも全体需要の15%前後に達する。

逆にセダンは10%程度にとどまる。そうなると「日本では軽自動車やミニバンが優先され、セダンやワゴンの開発は海外が主体になる」という。

ただしこの考え方が、日本と海外の格差を一層拡大させている弊害もあるだろう。

記事に関わった人々

  • 渡辺陽一郎

    Yoichiro Watanabe

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。買い得グレードを見極める執筆も多く、吉野屋などに入った時も、どのセットメニューが割安か、無意識に計算してしまう。

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