マクラーレン歴代ハイパーカー比較試乗 F1 vs P1 vs セナ 前編
公開 : 2019.11.02 09:50
素晴らしい視界 注意が必要
全方位にわたる視界の良さは驚くべきレベルであり、非常に限定的な視界しか持たないランボルギーニのコクピットデザインとはまったく正反対だ。自信が沸き上がって来る。
V12エンジンは滑らかで、これまでに9万3000kmを走破したこのクルマのギアボックスもスムースなシフトチェンジが可能だ。
時間があるので少しゆっくりとしたペースでF1を走らせてみたが、驚いたことに乗り心地も素晴らしい。
このクルマにはアンチロールバーや、かつてマクラーレンが「アンチトラクションデバイス」と呼んでいた装備など一切備わっていない。ノンアシストのステアリングはまるでロータスのような優れたコミュニケーション能力を誇るが、それも当然だろう。このクルマはエキシージよりも軽量なのだ。
もはや我慢する必要などない。だが、このクルマは1164kgのボディに636kgを組み合わせ、いかなる安全装置も持たないことだけは忘れてはならない。
つまり、愚かにもF1を親しみやすいモデルだなどと考えてはいけないということであり、このクルマのパワーウェイトレシオは、ブガッティ・ヴェイロンのそれをも上回っているということを肝に銘じなければ、これから起こることは理解できないだろう。
驚きの体験 25年の歳月
コクピットでは、つねに手足を忙しく動かしてシフトチェンジを行いつつ、進路を保つ必要がある。そして、ようやく少し視線をメーターへと落とす余裕が生まれると、そこには240km/hといった途方もないスピードが表示されている。
そして、さらなる驚きを体験することになるが、より正確に言えば何も起こらないという驚きだ。
強力なダウンフォースを生み出す最新モデルと比べれば、F1にはほとんど空気抵抗など存在しないため、このクルマはほとんど変わらぬ勢いで加速を続ける。
その年齢と価値に敬意を表して、それ以上アクセルペダルを踏み込むようなマネはしなかったが、かつてこの車両は386km/hもの速度に達しており、その最高速ははるかにパワフルで新しいP1とセナをも凌駕する。
直線では圧倒的な力強さを感じさせるF1も、コーナーへと舞台を移すと25年分の進歩が徐々に姿を見せ始める。
だが、唯一このクルマでオリジナルスペック外となるミシュランタイヤ(新車当時採用されていたグッドイヤーがすでに入手不可能となっているためだ)が、驚くべきグリップと限界付近での見事なバランスを発揮するのだから、悪いニュースばかりという訳ではないだろう。