マクラーレン歴代ハイパーカー比較試乗 F1 vs P1 vs セナ 後編
公開 : 2019.11.03 09:50
公道のセナ 檻に繋がれた野獣
だが、いかにして過去25年間で、マクラーレンのハイパーカーに対する指針が発展してきたかを示しているのがセナだ。
F1は純粋なロードゴーイングモデルであり、つねに公道が意識されていた。P1では公道とサーキットの間の微妙なバランスを見極め、そのサスペンションはつねにその双方で見事な能力を発揮している。
ではセナは?
以前公道で長時間セナを試したことがあったが、非常にスリリングな体験だった。そして同じようにハードな体験でもあった。セナは非常にうるさく、まったく快適性など備えていない。
例えスロットルを思い切り踏み込んだとしても、非常に優れたトラクションコントロールがすぐに作動し、エンジンパワーがカットされたことを伝えてくるため、セナが本来どんな反応を見せるのか、ドライバーが知ることはない。
もちろん、トラクションコントロールをオフにすることもできるが、それには十分な覚悟が必要となる。
なによりも、他の2台とは違い可能な限り速く走らせないのであれば、セナのステアリングを握る意味など無いのであり、公道上でのセナはまるで檻に繋がれた野獣のように感じられる。
そして、そんな運転を公道上で試すことなど不可能だ。
サーキットのセナ 異次元の存在
だが、サーキットでは?
驚異的だ。セナがあまりにも素晴らしために、P1のことを滑らかさが足りないとは言わないまでも、古臭いモデルだと感じさせる。まるで本物のレーシングカーか、公道走行可能なタイヤを履いたレーシングカーのようだ。
このクルマの高速コーナーでの落ち着きは、これまで運転したことのあるどんなクルマとも異なるレベルに達している。そして、その高速での正確さとスピード、そしてフィールは見事としか言いようがない。
もしセナになにか問題があるとすれば、それは最新技術を使ったピレリ・トロフェオRでさえ、このクルマのパフォーマンスには物足りないということだろう。
高速コーナーで800kgものダウンフォースによって路面へと押さえつけられる感覚は、P1でさえ味わうことの出来ない異次元のものであり非常に魅力的だ。
低速ではメカニカルグリップだけが頼りであり、アンダーステアにはやや注意が必要となるが、P1よりもF1に近い重量と、この2台よりも高いグリップを備えたセナであれば、素晴らしいドライビングの楽しみを味わうことができる。
そして、このクルマはそんなドライビングの楽しみを、驚くほど容易に楽しませてくれるのだ。
「向き不向き」のような評価は好きではないが、生まれた時代だけでなく、コンセプトも異なるこの3台に順位を付けるなど不遜ではないだろうか。
F1が一世代前の自動車世界のアイコンとしての地位を確立した一方で、セナも、P1ですら未だ歴史にその名を刻むことは出来ていない。だが、ロードゴーイングモデルからサーキットモデルへの歩みは明らかだ。
だからこそ、次に登場するマクラーレンのアルティメットシリーズが、F1よりもさらに豪華で公道向きのモデルとなるスピードテールであることに興味は尽きない。
このモデルによってF1から始まった歴史が完成することになるだろう。