グッドウッドのコースに帰郷 オースチン・ヒーレー100 明かされた歴史 後編
公開 : 2019.11.02 16:50 更新 : 2024.08.16 16:38
当時の様子を感じ取れる車内
「ホイールは当時のままではありません。オリジナルは48スポークですが、強度が足りないので60スポークのものに変えてあります。スペアタイヤのホイールはオリジナルですが」 一方で細部へのこだわりは驚くほど念入りだ。
フロントガラスのガイドピンは、クロームメッキされたスチール製ではなく、アルミ製。ダッシュボードには、シェールの両親が営んでいたディーラー「S&Wモータス」のバッジが貼ってある。「同じバッジがシェールの100Sにも取り付けられていました」 とオーナーが説明する。
「現存していたのはヒーレー博物館にあるものだけで、電話で確認して大きさを測ってもらいました。それからバーミンガムの会社でバッジを2枚複製しました。ダッシュボードの裏側には、バッジを固定する場所の目印を確認できますよ」
復元したてのエンジンは、スターターモーターが回転した瞬間に目覚める。グッドウッド・サーキットのパドックは、ヒーレー製4気筒エンジンの轟音で満たされる。65年ぶりにグッドウッドに戻ってきたヒーレー100。大きなステアリングホイールを握ると、当時の様相がつぶさに感じ取れる。
パドックをゆっくり走らせる中で、繊細なクラッチとややぎこちないシフトノブの扱いを体で覚える。コースに出てヒーレーを加速させると、高圧縮比のエンジンはスムーズさを増していく。初期モデルらしくトランスミッションはオースティン・アトランティック製の3速マニュアル。本来は4速だが、1速目が潰してある。
故郷に戻ったヒーレー100の活発な走り
2600ccの4気筒が生み出すトルクは余るほど力強く、オーバードライブに入れれば160km/h以上のスピードが出る。鋭いステアリングに驚くほど柔らかいサスペンション。コーナーでは大きくロールするが、テールが滑り出す感覚は良く伝わってくる。ヒーレー100にとっては、サーキットが「家」なのだ。
このシャシー・セットアップのおかげで、運転には不安感がない。レースや耐久ラリーなどで、ヒーレーが多く参戦した理由も良く分かる。今日はサーキットの自由な走行が許されている。マッジウィックやフォードウオーターなどのコーナーを抜けるたびに、シェールが勢いよく駆け抜けたシーンを思わず想像してしまう。
ラヴァン・ストレートを抜けてウッドコート・コーナーを曲がり、シケインに迫る。シェールの時代はレンガが積んであったが、今は貴重なクルマを保護するために発泡スチロール製のバリアが立っている。
今日の撮影のことは歴史には残らないだろう。だが細身のステアリングホイールを強く握り、右へ左へ整然とラインを追いかけていく身のこなしは、歴史に残るべき素晴らしいものだ。
オースチン・ヒーレー100にとっての故郷、グッドウッド・サーキットで、当時のありのままを味わうことができた。まるで古い魔法がかかったように、デビッド・シェールが再び姿を表したように思えた。