世界最大の寒冷地テスト施設に潜入 極寒の世界 秘密は「スノーハウ」 後編
公開 : 2019.11.16 18:50
一定したドライビング 唯一無二の場所
マキは10代の頃から長年にわたって訓練してきたそのスノードライビングの技術を遺憾なく発揮する。早めにしっかりとブレーキングしつつ、カウンターステアを当てながらコーナーへとアプローチすると、まったく簡単な様子で正確にティグアンをコントロールしてみせる。
ランオフエリアの少ないタイトコーナーでは速度を抑えたままだが、マキはタイヤテストや車両評価というものは、異なるスタビリティーコントロールのセッティングやタイヤであっても、比較可能なデータを積み上げるため、つねに一定したドライビングを繰り返す必要があるとのだと強調する。
主要な指標としてラップタイムは計測されるが、シャシーやタイヤのセットアップには経験に基づくテストドライバーの評価も欠かすことは出来ないのだ。
言うまでもないが、わたしのドライビングはまったくお話にならず、遅すぎるブレーキングとアンダーステアという、ビギナーにありがちな失敗を披露することとなった。
照明の明るさと、屋外コースと違い何も目印がない高速サーキットにはやや戸惑いを感じたが、マキも同意見であり、プロドライバーでさえ、ストロボ効果を無くすためにほとんどのテストを照明をオフにして行うのだと教えてくれた。
それでも、マキのアドバイスのお陰で多少はドライビングを改善することができた。去年カナダで経験した新雪の上でのスノードライビングの思い出が脳裏に浮かんだが、テストワールドの雪は数カ月も使用されているのだ。
夏場に行う寒冷地試験のため、積もった雪の温度やグリップレベル、湿度といったものが正確にコントロールされているというのがテストワールドの特徴であり、まさにここでしか体験できないものだ。
番外編:「スノーハウ」とは
簡単に言えば、テストワールドとはアイスリンクの上に造られた、食べ物の鮮度を保つための冷蔵施設のようなものだ。だが、年間8カ月間も自然を再現したコンディションのなか、内部の雪を最高の状態に保っておくには、数々の「スノーハウ」が必要となる。
地表の温度を下げるだけでなく、何層もの保温材が巻かれた地中の埋設配管を使ってテストコースの温度を正確にコントロールする必要があるのだ。
もっとも深くに設置された配管は、冷凍機からの排熱を使って地中を暖めることで、テスト施設の下部にある永久凍土層がコースコンディションに影響するのを防いでいる。
配管設備は機密事項だということで、われわれの理解の及ぶところではないが、中心となる冷凍設備は1.5MWもの出力を誇り、アイスリンク4面を十分に冷やすことが出来るほどだという。
エチレングリコールの冷媒が80kmもの埋設配管のなかを流れており、冷凍設備に備え付けられた熱交換器によって冷却されている。加熱を担当するのは全長45kmの配管だ。
「ここにあるのはコールドルームだけではありません。そんなものは誰でもできますが、本当に難しいのは雪を完ぺきな状態に維持することです」とインドア責任者のティモ・トゥオビネンは言う。
雪は春の間に施設内へと移動され、スキー場で使われているのと同じようなピステンブーリーの圧雪車によって、22cmの厚さへとならされるが、シーズンが終わる頃には、この厚みは10cmになると言う。
重要なのは雪そのものではないため、テストワールドが自ら雪を創り出すようなことはしない。「それに、人工降雪機が使えるほどの空気が施設内部には存在しないのです」とトゥオビネンは言う。
スノーハウでもっとも重要なのは、自然環境に近づけた条件のなか、雪をいかに上手く圧雪するかだというが、8カ月以上にも渡ってまるで新雪のような状態を維持するための水分の制御方法は秘密だという。
われわれが目にしたようなピックアップトラックとトレイラーを使って、シーズン中は定期的に雪面の整備が行われるが、ここではアイスホッケーのリンクで活躍する姿がよく知られている整氷車も2台使用されている。