コンパクト・トリオ 英国メーカーの考えた未来 A40とアングリア、ヘラルド 前編
公開 : 2019.11.09 07:50 更新 : 2020.12.08 10:56
5分で組み立てたヘラルド・クーペ
フロントドアの作りはいかにもコスト重視のものだし、スピードメーターはA35のものの流用。「比較的大きなステアリングホイールのおかげで、ステアリングのレスポンスも視界も良く、運転はすごく楽しいです」
「とてもアクティブな体験ですよ。他の古いクルマと同様に、事前にしっかり計画を立てる必要があります。クルマを運転するという実感の湧く、素敵なものです」 とオーナーのスミスが話す。
オースチンA40の発表から7カ月後、多くのディーラーの関係者や新聞記者が、トライアンフの招待でロイヤル・アルバート・ホールへ集められた。当時の映像は今でもユーチューブで見ることができる。映画のような演出の後、一番の見せ場は5分以内にトライアンフ・ヘラルド・クーペをステージ上で組み立てること。
チーフエンジニアのハリー・ウェブスターの見事な腕前による、独立シャシーの長所を強調するものだった。開発時に「プロジェクト・ゾボ」と呼ばれたクルマは、当初モノコック構造を採用予定だったが、ボディの製造を請け負ったフィッシャー&ラドロー社の都合で叶わず、独立シャシーが選ばれた。
トライアンフはこの独立シャシーが強度と安全性の面で有利だとし、ノックダウンでの海外生産にも都合が良いと主張した。デザインはトライアンフとしては初めて、ジョバンニ・ミケロッティが担当。エッジの効いたボディは、古いものと新しいものが混在した内面を上手に包み込んだ。
標準以上のライフスタイルを志す人へ
948ccのエンジンとトランスミッションは、従来から用いられていたもの。一方で、ラック&ピニオン式のステアリングと、4輪ともに独立懸架式のサスペンションは、英国の量産車としては初めての採用となっている。
クーペに引き続いてサルーンも数週間後には登場し、今回紹介するシグナル・レッドが眩しいクルマは1960年式。「大学時代に中古のトライアンフ・ヴィテスを購入して以来、トライアンフのファンです。見晴らしが優れていて、メンテナスしてあればシフトチェンジも軽快」 と2004年にヘラルド948を手に入れたクライブ・バーグマンは話す。
ヒーターやウインドウ・ウオッシャー、角度調整式のステアリングに、72段階に細かく位置や角度の調整が可能なフロントシートが含まれている。948には折り畳み式のリアシート、グローブボックス下の小さなバスケット状の小物入れなども装備する。やや高めだった価格を裏付ける内容だ。
1959年当時、標準以上のライフスタイルを志す人の移動手段という設定だったが、マーケティング的には見誤っていた。戦後初めてのトライアンフの小型車といえば、メイフラワー。衰退しつつあった英国を示すような、リタイヤした年代の人が乗るクルマのイメージだった。
トライアンフ・ヘラルドはどちらかといえばドライバーズカーを目指した。948ccエンジンはモータースポーツとの関連性もなかったものの、スポーティなイメージに仕立てようとしたのだ。
後編ではトライアンフ・ヘラルド・クーペとフォード・アングリアについて触れていこう。