スーパーカー側のグランドツアラー マクラーレンGT V8ツインターボ620ps
公開 : 2019.11.05 09:50
リラックスしてフランスから英国まで走破
マクラーレンGTは、運転が大好きなドライバーのためのクルマ。曲がりくねった道を走らせれば、重量のかさむ従来様式のグランドツアラーが酔っ払いのように感じさせる、無駄の廃された身のこなしを披露する。グリップ力だけでなく、操縦性のバランスや落ち着き、機敏性は衝撃的なまでに優れている。
ステアリングの操舵感も落ち着きを増しているが、手に伝わってくる感触は濃密。ステアリングを回した分だけ正確に、ドライバーのお尻を中心に回転するかのようにGTは向きを変えていく。
わずかに柔らかさを増したサスペンションと、穏やかなターボラグのエンジンとの組み合わせで、アクセルペダルの操作でコーナーのライン調整も許してくれる。もっとも、マクラーレンとして期待される内容ではある。
グランドツアラー的な側面はどうか。予想以上にリラックスして、フランスから英国までの長い道のりを運転できた。ベントレー・コンチネンタルGTほど柔軟で穏やかな乗り心地ではないが、ワインディングを鋭く走るクルマとしては予想以上に安楽だ。
なめらかに舗装されたフランスの高速道路はしなやかにこなし、路面が荒い区間になってもピレリPゼロ・タイヤのロードノイズが過度にうるさくなる事もない。シートは部分的に肉厚さを増し、リラックスした運転姿勢と向上した視認性も、長距離運転を快適なものにしてくれている。
橋桁の継ぎ目などではボディにもステアリングにも振動が伝わるし、ドアミラーやフロントガラスの両脇辺りからは風切り音が聞こえる。ミラー越しでもリアガラス越しでも、後方視界は良いとはいえない。だがそれ以外はとても落ち着いて運転ができる。
不満の残る路面を選ぶ走り
仮に不平をいうならエンジンとなる。軽くアクセルペダルを踏んでいる限りとても静かに回転するが、負荷が強くかかると急にボリュームが大きくなる。
110km/h程度で走行している限り、エンジンの回転数は2000rpm程度でターボも効いていない。つまり、追い越し車線で急加速させたい場面などでは充分なパワーが得られないということ。
一度ターボブーストが掛かり始めれば、狂ったような勢いでスピード上げていく。フランスの高速道路の制限速度は130km/hだが、警察官に許してもらえる135km/h程度で巡航した燃費は、驚くことに12.3km/Lという良好な数字を出してくれた。
路面の管理状態がいいとは呼べない区間では、マクラーレンGTがグランドツアラーとして不満が残ることも明らかになった。ツギハギの多い英国の道路網では、好ましくない不意の上下振動を抑えきれないのだ。ベントレーなら何事もなかったかのように、平然と走り抜けるはず。
まだらに補修された都市部での乗り心地は、快適とは呼べない。低速でマンホールのくぼみを超える場面では、硬いサスペンションとボディのきしみで騒がしい。エンジン回りの防音性を高めたことで、カーボンファイバー製タブの共振と共鳴する特性が表に出たのだろう。
速度を上げると、サスペンションの動きも良くなり、乗り心地も改善する。だが、やはり橋桁の継ぎ目などでは車内にもステアリングホイールにも、振動が伝わってくる。特定の路面状態では、タイヤノイズも大きくなるようだった。