ブーストアップで292ps アルピーヌA110 S シリアスが良いとも限らない
公開 : 2019.11.04 18:50 更新 : 2021.05.13 12:00
高性能版でも外観の主張は少ない
その結果、A110ピュアに比べて操縦性の良さは倍に引き上げられたと、アルピーヌは主張する。与えられたものは、自ら制限してきた内容を考えれば、さほど大きな変化とも呼べないだろう。
A110 Sにはそびえ立つリアウイングはない。レーシングストライプも、自己主張の強いステッカーもないし、「S」のエンブレムすらない。値段の高いグレードを買ったことを見せびらかすことはできないが、走りで違いを証明することはできる。
インテリアには人工スウェードの「ディナミカ」が張り巡らされ、オレンジ色のステッチが彩りを加えている。スポーツシートの背もたれの角度調整は、従来どおりできないが、運転姿勢はとても良い。モニター式のデジタルメーターも利用でき、操作系周りにも変更はない。
トランスミッション・トンネルの、赤く光る大きなボタンを押してエンジンスタート。Dボタンを押して発進し、オートかマニュアルか、変速モードを選ぶ。ステアリングの赤いボタンを押すと、スポーツモードに切り替わる。ステアリング・コラムに取り付けられたシフトパドルで変速を繰り返す。
発進時は明確に力強さが増している。標準のA110よりもアクセルレスポンスに優れ、回転の吹け上がりも鋭い。ルノー・メガーヌRSのセッティングよりブースト圧は低めだから、レスポンスだけでなくパワーの発生も直線的で自然。
5万ポンド(695万円)以上するスポーツカー基準で考えれば、盛り上がりに欠ける実用エンジン的ではある。だが、喜びを阻害するほど淡々としたものでもない。
シャープさを増したぶん、しなやかさは減った
低速域の乗り心地は、基本的に硬さを増している。市街地のツギハギの多い路面では、ドライバーはしっかり揺さぶられるが、速度を上げれば滑らかさが戻ってくる。それでも、スポーツカーの水準で考えれば、乗り心地は硬い部類には入らないはず。
反面、標準のA110が備えるしなやかな足さばきによって、英国郊外の道で味わえる流暢さが、Sには備わっていない。見返りとして、タイトな姿勢制御にシャープで直感的な操縦性、コーナリング時の安定性やブレーキング力を獲得している。その多くは、サーキットで高く評価できるものだ。
一般道ではコーナーの切り込み始めがシャープになり、ステアリングフィールもかっしりした。そのぶん、軽快なフィーリングは薄められている。サスペンションも硬くなっているから、底突きすることはない。いずれも、動的性能は引き上げられたと評価するべき内容だ。
サーキットを走れば、標準のA110以上に強い負荷がかかっても、フラットさを保つ。あえて意図的に操作しない限り、オーバーステアにも陥らない。どのコーナーでも従来以上のスピードを保って走れる。
だが、アルピーヌA110 Sが楽しくなったと感じるかどうかは、サーキットをどのように走らせたいかに依存するだろう。間違いなく走行性能は向上している。ニュルブルクリンクも、神経質になって走らせる必要はなくなったはず。