初代 マツダ・ロードスター 素晴らしき英国スポーツカーの継承者 前編
公開 : 2019.11.16 07:50 更新 : 2020.12.08 10:56
楽しさに焦点を絞った運転体験
最速でもないし最も高価なグレードでもない。だが1.6Lモデルは、これまで製造してきた中で最も重要なロードスターだといえる。あっという間に大勢のファンを獲得し、発売から3年間で25万人のドライバーがステアリングを握った。
1990年代のわれわれに必要だったのは、楽しさに焦点を絞った運転体験。それは今も変わらないと思う。
ロードスターのキーを捻った瞬間から、個性が伝わってくる。標準装備のステンレス製マフラーからは、思いがけず陽気なサウンドが響いてくる。この排気音は、とても綿密に研究を重ねた成果。25種類上のマフラーのプロトタイプが試されたという。
細部へのコダワリは、乗り心地にも表れている。小さな14インチの185/60タイヤが提供する、ロードホールディング性とフィードバックの絶妙なブレンドが、素晴らしい時間を味わわせてくれる。
精神的な祖先となったロータス・エランと同様に、ダブルウイッシュボーン式のサスペンションを前後に採用。ロータス自慢のバックボーンフレームは、エンジンとトランスミッション、デフをリンクさせた「パワープラント・フレーム」で現代化している。
アルミニウム製のボンネットを採用したマツダ・ロードスターの車重は、わずかに955kg。快適装備を多少犠牲にしてはいるものの、優れたハンドリングを獲得している。
ファミリアGT用エンジンをチューニング
そのボンネットの内側に秘められた1.6Lエンジンも、ロードスターの重要ポイント。当時のファミリアGTで使用されていたユニットがベースだったが、タイミングを調整し軽量フライホイールを採用。サルーン用の低速トルク重視から、パワー重視のセッティングになっている。
英国仕様の場合、自然吸気のツインカム4気筒エンジンは115psを6500rpmで発生。トルクは5500rpmまで回して、13.8kg-mが得られた。明らかに高回転型で、軽量なロードスターにぴったり。
ロータスやアルファ・ロメオと比較しても優れたエンジンで、5速マニュアルはストロークが短く、スナップするように変速できて楽しい。極めて鋭いスロットルレスポンスと融合し、サーキットでの力強い走りには魅了される。
馬力もトルクも高回転まで回さないと得られないから、ロードスターには正確なシフトチェンジが不可欠。パワー自体は控えめで、心配者でも限界領域に迫る自信を与えてくれる。
撮影中、運転する誰もが満面の笑みを浮かべる。しかも英国郊外の速度制限を違反することなく。
マツダ・ロードスターには、ユニクロのTシャツのように、とても多くのバリエーションや限定仕様が存在する。過去30年間に渡って英国の道を輝かせてくれたクルマの中でも、特に英国限定のル・マン・エディションはこれまでも論争の的となってきた存在でもある。
後編ではルマン・エディションとRSリミテッドの2台の限定グレードを見ていこう。