もう一度アスファルトへ 1935年製ブガッティ・タイプ59を再生 後編
公開 : 2019.11.17 16:50 更新 : 2020.12.08 10:56
使い込まれつつ、手入れもされている状態
ダットンはさらに、剥き出し状態のシャシーに手を付けた。状態は悪くなかった。オリジナルのクロスメンバーを元の場所に戻し、4番と刻印されたフロントバーを取り付けた。「オリジナルの部品を探し続けましたが、ブレーキのバックプレートなどは、綺麗すぎ、わざと輝きを鈍くしています」
「目指したところは、使い込まれていながら、手入れも充分にされている状態。1970年代のブガッティのレストアでは一般的な手法です。サンドブラスト加工(砂で研磨し艶を落とす加工)もしました。ナットやボルトは経年劣化風にし、アルミニウムの酸化皮膜も落としてあります」
複雑な構造のショックアブソーバーも組み直しテストした。「とても良くできたショックですが、調整次第では、ハンドリングや乗り心地を悪化させます」
「すべてを組み直す前に、シャシーはグレーに塗装しました。当時は誰がどのクルマに乗るかわからず、すべてグレーに塗っていたんです。多くの場合、クルマのボディは国の色、ナショナルカラーに塗られてました」
続いてはボディのレストア。ボンネットはオリジナルだったが、テール部分は燃料タンクと一緒に作り直した。シャシーナンバー59124のオーナー、マーク・ニューソンの協力で、形状をスキャニングさせてもらったという。
「マークはとても寛大な人物でした。しかしマークのクルマは右にねじれていたので、新しいテールは左向きに少し修正してあります」 ボディカラーを愛国的な緑色にすることは、ダットンを悩ませた。「良い色目になるまで、グリーンのペンキに黒を加え続けました」
過去の資料を研究し続ける
タイプ59、59121は最初ブガッティ・レーシングのブルーに塗られ、その後グリーンに塗り替えられている。そして最後に、ブルックランズでのレースではテールの先端だけ明るい青に塗られた。排気量が3.0L以上あるクルマを示すマーキングだ。
「古い写真は沢山の手がかりをくれます。わたしたちも日々研究を重ねています。今までに見たことがないからといって、間違った仕様とも限らないのです。すべてが手作りでしたから」 と経験を語るダットン。
「工場の出荷時点でそれぞれが異なり、トムソン&テイラーなどの専門家が開発を続けていました。歴史学者のマーク・モリスの話も参考になりました」 古びたインテリアにするため、ダットンは処理が途中のレザーを入手し、自ら染めて研磨した。屋外での露出や汗などが、独特の風合いを生み出している。
最後の仕上げは、フィッシュテールのブルックランズ・サイレンサー。1935年6月のインターナショナル・トロフィーで装着していたものだ。
2018年のレトロモービルで披露されたブガッティ・タイプ59、59121は、最初のオーナーを称えるとともに、その仕上りに圧倒的な賞賛を集めた。
クルマが完成すると、ダットンは一般道で一連のテスト走行をした。早朝、ひと気のない英国中部のコッツウォルズを320km以上走るのが定番らしい。3.3Lの直列8気筒のサウンドがコッツウォルズの丘陵地帯に響き、ダークグリーンのボディは朝日に美しく輝いたことだろう。