911の姿をしたモンスター ルーフSCRとCTR アナログ・スーパーカーの挑戦 後編
公開 : 2019.11.30 16:50
ポルシェのチューニングで名高いルーフが生み出したルーフSCRとCTR。見た目は少し古いポルシェ911ですが、中身は大きく異なります。英国編集部は実態を確認するべく、ドイツ・バイエルンのルーフ社へと向かいました。
エンジン不調でルーフCTRの試乗は叶わず
前編で盛り上げておいて申し訳ないが、取材当日、ブラッサムイエローのルーフCTRは、エンジンの問題で走行が叶わなかった。一方のルーフSCRは、まだ量産を初めていないということで、ルーフの本社にも存在していなかった。その代わり貸してくれたのが、オレンジ色のSCRプロトタイプ。
このクルマは993のプラットフォームを用いている。フロントタイヤの位置は20mm前方に移動し、リアタイヤは70mmリアへずらされている。そのため、最新型911の1000万ユーロ(12億円)が投じられたプラットフォームとは別物だが、ホイールベースは同値になっている。
とても残念だが、センセーショナルなドライビングレポートは日を改めて。もっとも、このプロトタイプもかなり特別なクルマではある。ルーフへお金を支払ったことがない筆者としても、未体験の代物だ。
美しく仕上がったクルマに搭載されているのは、見事な自然吸気エンジン。他のルーフ製エンジンと同様に、ベースとなっているのは3.6Lのポルシェ製ユニット。水平対向6気筒のメッツガー・エンジンだ。
実験的なチューニングを受け、ボアを広げストロークが伸ばされ、4.3Lや4.2Lの排気量も試したという。だが、高回転型の4.0Lの排気量がスイートスポットだと導き出したらしい。
コンロッドはチタン製。鍛造のピストンとクランクシャフトは、ル・マン仕様の997型GT3 RSRから利用している。エグゾーストはインコネル合金製で、強度と耐熱性からF1マシンにも好まれて用いられる素材。結果得られる最高出力は、ターボなしでも約520psに届く。
527psのルーフを着る
簡単な説明を受け、先にクルマの写真を撮影した。筆者はできるだけ多くを全身で感じ取っていく。
クラッチは旧式的に重たいが、サーボアシストをつけることも可能。シングルマスの軽量フライホイールを装備し、クラッチがつながるポイントは極めて狭い。フライホイールとバルブまわりからメカノイズが立つ中、行動に向けてゆっくりと進む。そして、鳥のように飛び立った。
大きなSCRプロトタイプの車内は、明らかに993のボディシェルとは異なる印象があるが、実際はかなり関連性が強いという。Aピラーの位置は広い前方視界を遮らないように、後ろ側に伸びている。クルマのタイヤ4本がどこにあるのか、テレパシーのように伝わってくる。
思わず運転に陶酔する。ポルシェを着るなんて決り文句があるが、527psのルーフも、ピッタリと自分にフィットする。リースミュラーがこのパワートレインの設定はまだ仮の状態だと話していた。
量産メーカーのポルシェは、環境規制に合わせて4.0Lのフラット6に、それなりの大きさの微粒子(パティキュレート)フィルターを装備しなくてはならない。おかげで甲高い響きが霞んでしまう。だがルーフにはその必要がないから、エンジンからは別次元のサウンドが響いてくる。
アグレッシブなカムは、アイドリング時でも独特のメカニカルノイズを発するが、2000rpmを超えてもうるさい。3000rpmを超えるとカムのプロファイルが変化し、音程が上がる。突然スムーズになり、不気味なほど静になる。大波が5500rpm付近から迫ってくる前の引波だ。