日本郵便/ヤマト運輸 EVの配送トラック導入のワケ 商用車なら「もと取れる」か

公開 : 2019.11.21 17:10  更新 : 2021.10.09 23:53

商用車ならEVは「もとが取れる」?

一方で、商用EVについては、以前から導入を考えてきた物流大手は数多くいた。

今回のヤマト運輸の発表にあるように、企業イメージとしての環境対策もさることながら、最も大きな要因は運用コストの削減だ。

EVとしての性能を追いすぎず、日常業務のなかで効率的な運用ができる性能が確保されていることを重要視している。
EVとしての性能を追いすぎず、日常業務のなかで効率的な運用ができる性能が確保されていることを重要視している。

今回導入する、ドイツポストDHLグループ傘下のストリートスクーターとの共同開発車両について、バッテリー容量や満充電での航続距離は公開されていないが、重要なことはヤマト運輸が日常業務のなかで効率的な運用ができる性能が確保されていることである。

つまり、そうした条件を大きく超えるような車両仕様は不必要。EVとしての性能を単純に追うだけでは車両の導入コストが上がってしまうだけで、ヤマト運輸にとってのメリットがなくなってしまう。

この点について、これまで約2年間に渡り、ストリートスクーターと協議を進めながら共同開発を行ってきた。

こうした運用面での出口戦略をしっかりと描くことで、EV導入の意義が生まれたのだ。

リチウムイオン二次電池、インバーター、充電器などのハードウエアについては、前述の中国NEV法による量産効果によって、EV車両全体としてコストが一気に下がってきたことも、今回のEV導入を大きく後押ししたと思われる。

集配車としての機能も徹底研究

さらに、ヤマト運輸が導入したストリートスクーター製EVは、EVであることはもとより、集配車としての機能を徹底的に見直して点が注目される。

配達担当者の身体の負担を軽減すること目的とした開発である。

ヤマト運輸のEV配送者は、足腰への負荷を減らすために、普通乗用車並みのシート高さを採用した上で、シート側面の凹凸も極力なくされている。
ヤマト運輸のEV配送者は、足腰への負荷を減らすために、普通乗用車並みのシート高さを採用した上で、シート側面の凹凸も極力なくされている。

第一に、乗降性の良いシートの設計がある。一般的に、日本国内での集配作業では1日あたり約200回も乗り降りする。

その際の足腰への負荷を減らすために、普通乗用車並みのシート高さを採用した上で、シート側面の凹凸も極力なくした。加えて、冬季での作業に対応して、シートヒーターを標準装備としている。

第二に、キーレスエントリーの採用だ。最近は乗用車では、コンパクトカーからミニバンまで標準装備され、家庭の主婦でもキーレスエントリーを当たり前のように使う時代だ。

両手で荷物を持った状態になる集配ドライバーにとって、キーレスエントリーの効果は図りしれない。

その他、荷室からの積み下ろしへの負担を軽減するために、荷室床面を日本人の体形に合わせた地上90cmとして設計。

また、360°のビューモニターを採用し、発進時や後退時などで車両周辺の様子をモニターで確認することで、事故の原因となり得るドライバーからの死角を大幅に減らした。

乗用EV市場が一気に成長しない日本だが、ヤマト運輸や日本郵便による集配EVの拡大により、一般ユーザーのEVに対する認識が変わっていく可能性もあるのではないだろうか。

記事に関わった人々

  • 桃田健史

    Kenji Momota

    過去40数年間の飛行機移動距離はざっと世界150周。量産車の企画/開発/実験/マーケティングなど様々な実務を経験。モータースポーツ領域でもアメリカを拠点に長年活動。昔は愛車のフルサイズピックトラックで1日1600㎞移動は当たり前だったが最近は長距離だと腰が痛く……。将来は80年代に取得した双発飛行機免許使って「空飛ぶクルマ」で移動?

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