マツダ次世代エンジン「スカイアクティブX」の仕組み 恩恵、特定ユーザーにのみ マツダ3試乗

公開 : 2019.11.26 11:30  更新 : 2021.10.11 13:50

操り心地、スカイアクティブX最大の長所

こういった特性は6速ATとのマッチングもいい。変速時の加速感の繋がりやコントロール感覚も変化も少ないため、MTよりも相性がいいと言ってもいい。

トルコン型ATながら大半をロックアップするダイレクトなドライブフィールもあって2ペダルでの繊細なコントロールも楽しめる。

操り心地のよさこそが最大のセールスポイント、と筆者。
操り心地のよさこそが最大のセールスポイント、と筆者。

トルクがレブリミット直前に固まっているようなエンジンでもないので、リズム重視のドライビングがなかなか心地よい。

なお、SPCCI稼働状況は情報パネルにより確認できるが、アイドリングやエンブレには至らない降坂など、極低負荷域以外はSPCCIで稼働。一般燃焼走行はほとんどない。

パワートレインの話ばかり続いたが、マツダ3の求める走りとの相性も良好だ。スカイアクティブX車のフットワークは他のラインナップと大きく変わらない。

スポーツ&ツーリングに軸としたファントゥドライブ志向。操舵初期回頭とRを絞っていく時の追従性等々の「意のまま」感とか素直さが見所。

乗り心地の面では多少荒っぽい部分もあるが、現行ラインナップではマツダの謳う「人馬一体」を最も体現している。

結果、マツダ3スカイアクティブX車はドライバーの感性に馴染みのいい繊細なコントロール性を実現した。

操り心地のよさこそが最大のセールスポイントなのだ。

恩恵、特定ユーザーにのみ

5代目カペラのディーゼルには市販車では初となるプレッシャーウェーブスーパーチャージャー(コンプレックスチャージャー)が採用された。一昔前の看板エンジンだったロータリーエンジンも実用量産化したのはマツダくらい。そしてスカイアクティブXである。

マツダは実用化困難なエンジンを世界に先駆けて実用化するのが大好き、あるいは学究肌なのかもしれない。

「人馬一体」の走りを究めたいというドライバー以外は価格相応のメリットを望めないだろう。
「人馬一体」の走りを究めたいというドライバー以外は価格相応のメリットを望めないだろう。

こだわりというかトレンドに流されることなくわが道を行くというか、突き抜けてマイノリティというか。それはクルマ好きの知的好奇心を多いに刺激するが、ユーザーメリットは? コスパは? となれば話は別である。

マツダ3ラインナップの主なグレードでエンジンによる価格差をざっくり見ると、標準設定ともいえる2Lガソリン車に対して1.8Lディーゼル車は約28万円高、スカイアクティブX車は約68万円高。ディーゼル車とスカイアクティブX車の価格差は約41万円。

WLTCの高速モード燃費を比較するとスカイアクティブX車は2L車の約8.5%増、ディーゼル車の12%減。2L車対比でも価格差を燃費で埋めるのは不可能である。

70万円近い投資の行き先が具体的な性能では「究極の素直さ」あるいはコントロール性に重きを置いたファントゥドライブとなる。

ハードウェアや制御系の設計、世界初の量産圧縮着火ガソリンエンジンの栄誉を見れば70万円位高くなっても仕方がないとは思うのだが、実利として相応とは言い難い。

CX-5における2.2Lディーゼルと2.5Lガソリンターボのように同等価格で走りの嗜好や主用途で選び分けるような設定ならスカイアクティブXの意義も高まる。

つまり、燃費と巡航余力のディーゼル、速さのガソリンターボ、コントロール性と安定燃費のスカイアクティブXという具合にだ。

内燃機の未来に対して新たな扉を開く技術なのは間違いないが、「人馬一体」の走りを究めたいというドライバー以外は価格相応のメリットを望めないだろう。

記事に関わった人々

  • 前田惠介

    Keisuke Maeda

    1962年生まれ。はじめて買ったクルマは、ジムニーSJ30F。自動車メーカーのカタログを撮影する会社に5年間勤務。スタジオ撮影のノウハウを会得後独立。自動車関連の撮影のほか、現在、湘南で地元密着型の写真館を営業中。今の愛車はスズキ・ジムニー(JB23)
  • 川島茂夫

    Shigeo Kawashima

    1956年生まれ。子どものころから航空機を筆頭とした乗り物や機械好き。プラモデルからエンジン模型飛行機へと進み、その延長でスロットレーシングを軸にした交友関係から自動車専門誌業界へ。寄稿していた編集部の勧めもあって大学卒業と同時に自動車評論家として自立。「機械の中に刻み込まれたメッセージの解読こそ自動車評論の醍醐味だ!」と思っている。

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