最高のAMG GT メルセデスAMG GT R プロに試乗 さらなる高みも目指せる
公開 : 2019.11.30 09:50
ドラマチックさを楽しめるV8
特ににぎやかなのはリアタイヤ。サスペンションの入力がロールケージを介して直接車内に届くから、振動だけでなくノイズも大きい。
一方で地形に伴う起伏なら、ある程度のスピードが出ていれば、ダンパーは充分なしなやかさを残している。ホイールアーチギリギリに収まる大径ホイールを考えれば、それほど大きなストロークは期待できない。
サスペンションの動きを想像しながら、これまで運転したメルセデスAMGのGTとしては、最良かもしれないと感じた。もっとも、これまでのクルマはさほど良いとは呼べるものではなかったのだが。
パワートレインは、エンジンの回転数やスピード、レスポンスにおいて、ドラマチックさを充分に持っている。V8エンジンを5000rpm以上回せば、怒り狂ったエネルギーを驚きを持って味わえる。大排気量を活かし、低回転域から高いギア比を保ったままスピードを一気に上げることも造作ない。とにかく速いクルマだ。
トランスアクスル・レイアウトとなる7速DCTは、スポーツ寄りのドライビングモードでは、低速域でシフトショックが強い場合がある。だがコンフォートモードにしておけばスムーズで変速タイミングも予測可能。マニュアルモードならキビキビ選んでいける。
ダイナミクス性能で気になる点といえば、やや過敏気味のハンドリング。通常のGTと同様にフロントタイヤはドライバーのかなり前方にある。そのレイアウトを補うために、可変ステアリングと4輪操舵システムによって、機敏さを高めることを目指している。
違和感の残るハンドリング
しかしそれがうまく機能していない。システムがしばしば予測しない制御が入り、実際のドライバーと前後タイヤとの位置関係と、クルマの反応とが一致しないことになる。操縦と反応が、完全に心地よく同調したようには感じられない。
むしろ横方向の剛性を高め、俊敏性を良くしようとしたGT R プロの場合、印象としては若干悪化した向きすらある。ランナバウトや交差点でステアリングホイールを大きく切り込んでいくと、伝わってくる手応えの変化にも驚かされる。
切り始めはステアリングにしっかりとした重さと感触がある。しかしダイナミック・モードでスピードを上げたり、荷重を加えていくと、それらが失われる。
チャレンジングな道で、素晴らしいドライバーズカーとしての輝きを増そうという場面で、残念ながらGT R プロは扱いが難しく感じられるのだ。ある領域までは素晴らしい走りをするのだが、予測の難しさが顔を出し、気持ちを削がれてしまう。
メルセデスAMG GTの最高のクルマが欲しいのなら、GT R プロを選んで間違いないだろう。宝石の原石状態だったGTに磨きをかけ、明確な進化を感じさせる輝きを得ている。ブランドのイメージと同じように。
フロントにV8エンジンを搭載したホットロッド的なマシンとして、これほど綿密に設計され、優れた動的性能を得ているクルマは他にない。現代のスーパーカーの運転のしやすさに飼いならされたドライバーにとって、AMGの少しやんちゃなハンドリング性能には、新鮮さを覚えるかもしれない。