【ビートルがベース】知ってる? WDデンゼル1300 ポルシェ356のライバル 後編
公開 : 2019.12.07 16:50 更新 : 2020.12.08 10:56
当時の戦闘力の高さを物語る走り
バランスは素晴らしく、オーバーステア状態になるまで想像通りにボディはロールする。フォルクスワーゲン製を含む、すべての部品を組み合わせた以上の仕上りを持っている。
このWDデンゼル1300は、名門サザビーズのオークションで推定45万ユーロ(5400万円)の上限値が付いている。その事実が、限界付近まで確かめたい気持ちを抑え込む。だがデンゼルはそう簡単に手に負えなくはならなそうだ。
加速も鋭く、同調するように素晴らしいサウンドトラックが楽しめる。イキイキとしたパフォーマンスがWDデンゼル1300のトレードマーク。長い時間運転するほどに、引き出せるポテンシャルが高まっていくのがわかる。
爽やかな晩夏の風が吹く夕刻に、傾いた太陽に向かってロードスターを走らせる。現役時代、ドライバーがどんな心持ちを抱いていたのか、オーバーラップする。このコンパクトでしなやかなスポーツカーが、タイトなストリートコースやラリーステージで、どれだけ戦闘力が高かったのかも理解できた。
モータースポーツでの優れた成績や素晴らしい走行性能に、愛らしいスタイリング。これだけのクルマでありながら、現役時代にデンゼルが構えるウィーンのワークショップに立ち寄る人はとても少なかった。歴史の不思議さでもある。
デンゼルのロードスターが何台製造されたのか、正確な数は明らかにはなっていない。推定で350台という人もいれば、わずかに65台と考えている人もいる。だが、現状の残存台数の少なさを考えると、65台の方が信憑性が高い。
生産台数はわずかに65台という希少性
いま確認されているクルマは35台で、ヨーロッパとアメリカに分布している。ポルシェ356スピードスターは数千台は製造されているから、その希少性は相当なものだ。
デンゼルは世界的な認知を得られなかっただけでなく、オーストリアに当時いたポルシェに対しても成功は収めることはできなかった。だがこのまま忘れ去られるのは、正しいことではない。
精巧に作られたクルマは、ライバルモデルを何度も実践の場で打ち破っている。可能性を秘めたプロジェクトに心動かされたポルトガルのヘレディアには、輸入業者になる自信まで持たせた。
結果的にデンゼルの計画は道半ばで終わる。フォルクスワーゲン・ビートルのエンジンの限界が見えたこともあっただろう。だが、ヴォルフガング・デンゼル自信の関心が薄れたことも関係している。
デンゼルは、1952年にオーストリアでBMWの正規輸入業者となったのだ。そしてBMWとの密接な関係を築き、BMW 700の設計から生産にも関わることになる。そちらは、彼自身の人生を大きく変えたクルマになった。
これも、歴史の面白いところでもある。
WDデンゼル1300(1949〜1959年)のスペック
価格:1949年時 4695ポンド(50万円)/現在 38万ポンド(5320万円)以下
生産台数:65台(予想)
全長:3607mm
全幅:1620mm
全高:1200mm
最高速度:164km/h
0-96km/h加速:13.7秒
燃費:13.1km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:641kg
パワートレイン:水平対向4気筒1281cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:74ps/5400rpm
最大トルク:9.7kg-m/4400rpm
ギアボックス:4速マニュアル