【ベントレー製V型8気筒エンジン60周年】偉大なエンジン、歴史を振り返る 前編
公開 : 2019.12.27 10:50
唯一無二のエンジン
一度はメーカー自身がこのエンジンの引退を考えていたことを思えば、これほどの長寿を誇っているということ自体が称賛されるべきだろう。
1970年代後半、すでにデビューから時間の経っていた911をポルシェが928にモデルチェンジしようとしたように、1990年代にロールス・ロイスを所有していたヴィッカースは、新型アルナージとセラフに最新のBMW製エンジンを搭載することを決めていたのだ。
だが、1998年にフォルクスワーゲンがベントレーを買収すると、彼らが最初に行ったのがいまではさらなる名声を博しているこの古のV8を再登板させるという決断であり、そのために莫大な費用を掛けてまで、アルナージのエンジンルームの再設計を行っている。
それと同時に、主には排ガス規制に適合するためだったが、パワーと信頼性を向上させるべく、このV型8気筒エンジン自身も徹底的な設計の見直しを受けている。
この最新の6.75LツインターボV8で使用されているパーツと、1959年製6.25Lエンジンとの互換性はほとんどないが、この両者に繋がりが無いなどというものは誰もいないだろう。
現在、このV8は単なる伝説的なエンジンというものを越えた存在となっている。唯一無二であり、このV8と同じような方法でパワーを紡ぎ出すエンジンなど他にはない。
見事な余裕
いまやそのパワーは538psと60年前の少なくとも2.5倍に達しているが、これでもベントレーがディーゼルを廃止したいま、ミュルザンヌは現行の8気筒と12気筒エンジンを積んだベントレーとしてはもっともパワーの小さいモデルなのだ。
一方、トルクに関してこのクルマを凌ぐ存在はいない。1750rpmから112.1kg-mという巨大なトルクを紡ぎ出すが、これ以上のトルクを発生させない唯一の理由はZF製ギアボックスが耐えられないからだと言う。それでも、このエンジンがトルクを発生させる様子は、思わずこのクルマにギアボックスなどいるのだろうかという思いを抱かせる。
60年という歴史に相応しく、バルブ(シリンダー辺りわずか2本だ)を駆動するのはV型のエンジンブロック奥深くに埋め込まれたシングルカムシャフトが駆動する長いプッシュロッドであり、もちろんそんなことはあり得ないが、例えベントレーが望んだとしてもこのエンジンが高回転を許容するようなことはない。
4500rpmという回転数で発生するピークパワーを得るにはしばし待つ必要があるが、このエンジンの真骨頂は2400rpmも回せば思わず酔いしれるその荘厳なパフォーマンスにあり、これほどの余裕を感じさせるエンジンは他には存在しないだろう。