【今あらためて試乗】シトロエンBX あり触れていて、しかし非凡 未来感覚を詰め込んだ30年モノ

公開 : 2019.12.15 05:50  更新 : 2021.10.09 22:11

「バカンスに出かけたい」という見出しから始まる1990年式のシトロエンBXの試乗記です。ハイドロ→底なしにストロークの深いアシを想像? じつはそうではないのです。歴史をみても存在意義があります。

バカンスに出かけたい

text:Takuo Yoshida(吉田拓生)
photo:Koichi Shinohara(篠原晃一)

ペタンと地面にはいつくばっているハイドロ・シトロエンが、ムクムクッと起き上がる様は何度見てもユーモラスだ。

それは寝ていた犬がゆっくり起き上がって伸びをする様子にも似ているし、冷徹な機械とは違う生命の存在すら感じさせてくれる。

後期型の顔はヘッドランプ間に小さなグリルが開けられ、ウインカーも大きくなっていることでわかる。シンプルな1本ワイパーもシトロエンらしい。車高は4段階に変化する。
後期型の顔はヘッドランプ間に小さなグリルが開けられ、ウインカーも大きくなっていることでわかる。シンプルな1本ワイパーもシトロエンらしい。車高は4段階に変化する。

実際にハイドロ・シトロエンの体内にはLHMというOILが血液のように流れている。その油圧によって車高が支えられ、パワステやブレーキが機能するようになり、モデルによってはヘッドランプも目玉のように動く。

車高が完全に上がり、ワーニングランプが消えると、走行が可能になる。

今回のBX19TRIブレークは、少し古めのシトロエンを専門に扱うモダンサプライガレージの売り物。1990年式なので後期型ということになる。

「機関をきっちり仕上げて乗り出し100万円くらい」というフワッとしつつ的確な表現がシトロエン屋さんらしい。

ルーフが延長されたブレークは、ただでさえ広大なBXの荷室がさらに広くなっている。だがもともと直線基調のBXなので、違和感はない。

フランス人がバカンスに出かけるために荷物を満載し、さらにルーフの上にもたくさんの荷物を載せて出かける、そんなシチュエーションに合う1台だ。

いいとこ取りのハンドリング

現行のメルセデス・ベンツSクラスはレーダーセンサーで前方の路面の凹凸を見張っていて、事前にアシの硬さを変化させる。

これによってフラットな乗り心地とかっちりとしたハンドリングを両立しているのだ。けれどBXの乗り味もどちらかと言えばそれに似ている。

太くなってしまったが後期型でも1本スポークのステアリングが継承されている。メーターナセルの左右にスイッチを配するのは初期型と同じだが形状は普通になってしまった。
太くなってしまったが後期型でも1本スポークのステアリングが継承されている。メーターナセルの左右にスイッチを配するのは初期型と同じだが形状は普通になってしまった。

ハイドロ・シトロエンというと底なしにストロークの深いアシを連想する人もいるだろうが、そうでもないのだ。

ロールもピッチングも素直に表れるのだが、しかしステアリングから伝わってくるインフォメーションはとても確度が高い。

ハイドロは柔らかい金属スプリングの乗り心地と、硬いスプリングのスポーティな感覚を併せ持つ。だから5速MTのBXの走りはスポーツカー顔負けなのだ。

だが今回のブレークは普通の4速オートマティックであり、パワーも100psに満たない。車体の軽さはひしひしと感じるのだが、スピードはけっこう遅い部類に入ると思う。

それでもシトロエンの名にキズは付くまい。シートは非常に柔らかいし、リアシート・スペースは足元を含めて広大。リアのシートバックを倒すとスクエアなラゲッジスペースが現れる。

一見キワモノのようだが、実は乗り心地と使い勝手を高いレベルで満たしている。BXの守備範囲の広さには驚かされるばかりだ。

記事に関わった人々

  • 吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。フィアット・パンダ4x4/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。

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