BMW i8 プロトタイプ

公開 : 2013.08.07 20:00  更新 : 2017.05.29 18:00

■どんなクルマ?

BMW i8はBMWの新しい”iブランド”の第2弾だ。来年4月に英国で販売が開始されるこのi8は、ポルシェ911カレラ4Sの£87,959(1,310万円)という価格をターゲットとしていると言われている。

59g/km以下ののCO2排出量と、40.0km/ℓ以上の燃費を持つ先進のスポーツカーであり,2015年にはそのロードスター・バージョンも登場すると言われている。このロードスターは、ミュンヘンのBMWのR&Dセンターで鋭意開発中とのことだ。

この先進的なスポーツカー、i8は2009年のフランクフルト・モーターショーで最初に披露された。その時は、ディーゼル・エンジンを備えたハイブリッド・モデルであった。しかし、現在はガソリン・エンジンとのハイブリッドに変更されている。

その兄弟モデルであるi3と同じように、電気の力だけでも最高35kmの航続距離と120km/hのトップスピードを持つ。更に、後部座席の下に取り付けられる42ℓのフューエル・タンクをガソリンで満たせば、その航続距離は飛躍的にアップする。BMWは、公式に数値を明らかにしていないが、i8がこれまで生産されたどんなスポーツカーよりも素晴らしい燃費を持つことは明白だ。

i8のスタイリングは、4年間の開発期間で進化を果たした。しかし、基本的なシルエットと、2枚のリア・ホイールアーチ上のフィンは維持されたままだ。サイズ的には全長が4689mm、全幅が1942mm、前項が1293mmと、第2世代のZ4よりも449mm長く、152mm広く、3mmほど低い値だ。

i3と同様に、I8は、そのドライブトレイン固有の重さをカバーするためにカーボンファイバーとアルミニウムを広範囲にわたって使用している。いわゆるライフ・モジュールは、カーボンファイバーによるメイン・ストラクチャーと、カーボンファイバー製のドア・フレーム、アルミニウム製のフロントおよびリア・サブフレームで構成される。また、ルーフはカーボンファイバー製、ボンネットとドア・パネルはアルミニウム製、バンパー、フェンダーはコンポジット・プラスティックで形成される。また、BMWはi8がスマートフォンなどに使われているゴリラ・ガラスを初めて使用するプロダクション・モデルになると語っている。このゴリラ・ガラスはリア・ウインドーに使用されることになる。

ボディ重量は1490kgであるとしているが、最終的な数値はまだ公表されていない。この数字は2シーターのZ4 sDrive35iSよりも35kgも軽い値だ。また、リフトバック・スタイルのテール・ゲートの下には150ℓのブートスペースを持ち、大人4人が一泊旅行に行けるだけの荷物置場が確保されているという。

i8のガソリン・エンジンは、ターボ付きの1.5ℓ3気筒となる。2.0barの過給圧を持つもので、BMWコンパクト・アクティブ・ツアラーのプロダクション・モデルや、来年発表される新しいミニに搭載されるのと基本的には同じスペックのもの。キャビンの後ろに横置きされるこのエンジンは、228bhp、32.6kg-mのパワー、トルクを持つ。そして、そのパワーは、従来のトルクコンバーターの6速オートマチック・ギアボックスを介してリア・ホイールに伝えられる。

このエンジンを支えるのが2基のモーターだ。フロント・アクスル・アッセンブリーの中に配置されるモーターは、4WDの650i xDriveと共有するものだ。パワーは129bhp、トルクは25.4kg-mで、2速のオートマティック・ギアボックスが噛まされる。

バッテリーのチャージが充分であれば、スタート時はこの電気モーターがフロント・ホイールを駆動するだけで、ゼロ・エミッションの走行が可能になる。パフォーマンスが必要な場合、ガソリン・エンジンがこれに加わり、i8を4WDのスポーツカーとしての走りを披露することになる。

モーターは、フロント・アクスル内の2つに加え、小型のものがエンジンの後ろに備え付けれられる。パワーは13bhp、トルクは11.2kg-mだ。これは、リア・ホイールに更なるパワーをプラスする役目を持つとともに、ブレーキ時やパーシャル・スロットル時のキネティック・エネルギーを利用して発電機にもなるものだ。

また、このリア・モーターは、スムーズなパワー・デリバリーにも寄与する。これによりガソリン・エンジンの僅かなターボ・ラグが解消されるのだとBMWは主張している。

BMWはそのパワー合計を357bhpとしている。トルクは58.0kg-mだ。そのトルクの44%は、電気モーターによって造られるものだ。

i8は、3つのドライビング・モードを持つ。コンフォート、スポーツ、エコプロの3つだ。異なるスロットル・マッピング、ステアリングとダンピング・マップ、そしてモーターとガソリン・エンジンのパワー配分などをコントロールすることになる。

サスペンションは、フロントがダブル・ウィッシュボーン、リアが5リンクという形式。リアはアルミニウムのサブフレームに直接懸架される。

このi8のプロジェクト・リーダー、カースティン・ブレイトフェルドは、重量配分は理想的な50:50になっているという。

ステアリングは、I8にシャープなレスポンスを与えるようにユニークなプログラミングが行われているが、基本的にはX3からのものを流用している。ホイールは20インチ。フロントが7.0インチ、リアが7.5インチで、標準は比較的細いフロント195/50、リア215/45というサイズのタイヤが組み合わせられる。オプションとして、よりグリップが高くなるように。今回の試乗車にも取り付けられていた215/45と245/40というロープロファイル・タイヤも選択可能となっている。

■どんな感じ?

アピアランスもドライビング・キャラクターも明確に新しい世界が演出されている。空に向かって開閉するバタフライ・スタイルのドアをくぐって、i8に乗り込む。シートに腰を下ろす前に、かなり幅の広いカーボンファイバー製のサイド・シルを跨がなければならない。しかし、一旦座ってしまえば、電動調整式のシートが快適なポジションをきめてくれる。低くセットされたシート位置、ほとんど垂直なステアリング・ホイール、バッテリーを隠すための高いセンター・トンネルなど、気持ちの良いポジションをとることができるのだ。

ギア・レバーの隣のスタート・ボタンをプッシュする。スタートことを知らせるために、チャイムの音が響き、一組の素晴らしいグラフィックがインストルメントに表示される。ちなみに、そのグラフィック・カラーは、ドライブ・モードに応じてカラーが変化する仕組みだ。eドライブとエコプロ・モード選択時にはブルー、コンフォートとスポーツ・モード選択時にはレッドとなる。

デフォルトのドライビング・モードはコンフォートとなる。これは、3つのハイブリッド・セッティングのうちの真ん中だ。

バッテリーのチャージが充分であれば、最初の数百メーターはフロント・アクスルに納められたモーターのみで駆動する。開発中のプロトタイプでは、若干の電気モーターの唸りが入ってくるが、これはプロダクション・モデルでは更にリファインされていることだろう。

スピードが64km/hに近づくとエンジンに火が入る。そのエンジン・パワーはリア・ホイールに伝えられるので、この時点からi8は4WDモデルとなる。その3気筒ガソリン・エンジンは少々荒々しいサウンドを伴う。しかし4000rpmを越え、カットアウトされる7000rpmまでは胸のすくようなシンプルなサウンドを奏でる。しかし、その音響効果はエンジンからのものがすべてではない。BMWは望ましいサウンドを生み出すために、サウンド・ジェネレーターを組み込んでいるのだ。

フロントをモーターで、リアをガソリン・エンジンで駆動すると、本当に印象的な加速となる。更にそれを助長するのがスポーツ・モードだ。このスポーツ・モードを選択すると、キャラクターは一変する。スロットルとステアリングのレスポンスが良くなるだけでなく、ダンパーは固くなり、ボディ・コントロールもより良いものとなる。

公式には0-100km/h加速が4.5秒、80-120km/h追い越し加速が4.5秒とアナウンスされているが、そのペースはM3とほぼ同じだ。

今回試乗したのはフランスのミラマスのテスト・コースたったが、インフィールドのハンドリング・コースと、外周コースを走れば、直ぐに魅力的なドライビング・フィールと高い能力をもっていることが分かった。ステアリングは幾分か軽いものの、ダイレクトで驚くほど機敏なものだった。

未来的なルックスを持つクーペの低い重心が、コーナーの進入に際して多くのアドバンテージを生み出していることがわかる。そのダイナミックな特性は、この新しいモデルの魅力だ。特に、軽快な足まわりとハンドリングには魅力を感じざるを得ない。

また、横方向のGが大きくなろうと、ボディの振られ幅は非常に少ない。限界値も極めて高い。なお、現在のシャシー・チューンのリミットでは、アンダーステアが顔を出すようだ。それは、このテストトラックの真新しいアスファルトの影響もあったかもしれない。

それでも、フロント・エンドが路面を捕らえる力が不足しているのは確かだ。それでも強引に走ると、ダイナミック・スタビリティ・コントロールが効いてしまうのだった。BMWのエンジニアによれば、このアンダーステアは、専用に開発されたブリヂストン・ポテンザの影響もあるということだ。オプション・サイズのタイヤであっても、転がり抵抗を抑えるため。比較的高いプロファイルを持つのがその要因となっているのだろう。しかし、これはプロダクション・モデルにまでは解決することだろうと思う。

また、ダイナミック・スタビリティ・コントロールの効きを、ダイヤルで調整することも可能だ。それによって、アンダーステアを消すこともできる。実に多くの調整が効く進歩的なシャシーなのだ。

エンジンとモーター、その両方のパワーを利用すれば、本当に速いクルマであり、自信をもってスロットルを踏むことができるクルマでもある。また、コーナーでは速いだけでなく、オール・シーズンで安全なクルマともいうことができよう。

■「買い」か?

最初、オンロードでの性能が、ハイテク・ドライブラインをはじめ、補助コンポーネンツによって損なわれるのではないかという不安があった。あまりに複雑であまりに重く、効率を重視したセッティングになっているのではという懸念もあった。しかし、BMWのエンジニアはその不安を払拭してくれた。

このドイツのメーカーは、既存のどのBMWよりも低い重心を持つ2ドア・クーペを市場に送り込んできたのだ。しかも、カーボンファイバーを多用するというストラクチャーを伴ってだ。

とはいうものの、このi8はサーキットを主にターゲットとしたモデルではない。少なくとも、トラディショナルなセンスでは語ることの出来ないモデルだ。

i8は、ステアリングを握ることが楽しく、素晴らしく、病み付きになるクルマだ。そして、サーキットでは素晴らしい性能を発揮し、ダイナミックなキャラクターと凄まじいペースをもたらす、マルチファンクションなドライブ・システムを持ったクルマである。アンダーステアが気になるが、それもダイヤルを2、3コマ調整することで打ち消すことができるのだ。

i8がデビューした際には、ポルシェ911カレラ4 vs BMW i8クーペという企画がすぐに考えられる。それはオールド・ワールド vs ニュー・ワールドという構図となる。来年になって、その比較をするのが今から楽しみだ。

(グレッグ・ケーブル)

BMW i8 プロトタイプ

価格 NA
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 4.5秒
燃費 40.0km/ℓ
CO2排出量 59g/km
乾燥重量 1490kg
エンジン 3気筒1499ccターボ+モーター
最高出力 357bhp
最大トルク 58.0kg-m
ギアボックス 6速オートマティック

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