【主役と影武者】ACアシーカ/アストン マーティンDB MkIII 007が結ぶ2台 後編
公開 : 2020.01.18 16:50 更新 : 2022.08.08 07:51
ドライバーズカーと呼べるアシーカ
実際はアシーカの方が速く、エンジンの吹け上がりもDM MkIIIより鋭い。ジャガー由来の4足マニュアルの操作も喜びにあふれている。フォード製ユニットはパワーアップされており、フォード製のトランスミッションでは対応しきれなかったのだろう。
アストン マーティンは常に上品さが漂うが、ACの方が頼もしい。コーナリング中にアクセルペダルを戻すと、心地よくタックインしていく。
クラッチは重いが、フルスロットルでの加速との相乗効果で好感触。レブカウンターの針が回転し、パワートレインが奏でる素晴らしいサウンドトラックに浸ると、右足の力を緩めるのが難しくなってしまう。
その音響に一致するかのように、アシーカはカーブの続く道を積極的に進む。オープントップのエースと比べれば機敏さや足取りでは劣るかもしれないが、DB MkIIIと比べれば大きな違い。
アシーカの方が軽量で引き締まり、よりダイレクト。特にラッドスピード社の軽いボディも相まって、すべてがドライバーズカーとして仕上がっている。
アシーカらしくサスペンションは硬めで、乗り心地は路面が荒れた区間では乱れがち。だがスピードを上げれば落ち着きが出てくる。ACに長く乗るほど、コーナーへ侵入する速度が高くなるほど、操縦に対する反応が一致していることに気付かされる。
グリップ力は高く、レーサーとしての安定性がある。ステアリングはダイレクトで性格。クルマをさらにプッシュする自信が自然と湧いてくる。
スクリーンのアストン、リアルのアシーカ
ひとしきり楽しんで、クルマを駐車場に入れる。温まったエンジンは冷えながらカチカチと音を鳴らした。
両車を体感したいま、もしこの2台の選択肢が与えられたとして、ACアシーカのキーを取らないというチョイスはしにくい。スリルとスピードに溢れた、小劇場のようなクルマだ。
多くの人々はまだ、第二次大戦の配給生活に苦しんだ記憶が冷めやらない中で、ジェームズ・ボンドは銀幕で夢の世界を描き出した。想像しうる限り、ラグジュアリーでエキサイティングな世界。
シャープなスーツを着こなし、ステアではなくシェイクで作ったマティーニを愛するスパイ。薄暗さが残る時代に、ジェームズ・ボンドはバトルシップ・グレイに塗られた、グラマラスなアストン マーティンのステアリングを握る必要があったのだ。
しかしイアン・フレミングは、国際的な陰謀から逃れた現実世界で、控え目で機敏なACアシーカに強く惹かれたのだろう。その理由は、今となっては簡単に理解できる。