【偉業と思えるほど高い完成度】ACシュニッツァー ACS5 BMW M5ベースの720ps
公開 : 2020.01.13 09:50
KW製サスによる歯切れの良いコーナリング
もはや速すぎて、英国で走らせている限り、シュニッツァーが追加した95psや9.6kg-mは、気付ける差ではない。そもそも現実的に発揮できる領域ではない。
しかしドイツなら話は異なる。アウトバーンで240km/hを超えてくれば、少し過剰気味ながら、エクストラサウンドを楽しむことができる。マクラーレン720SよりアウディQ7の方に前面面積は近いかもしれないが、305km/hに自主規制された最高速度までも、楽に到達できる。
ステアリングフィールは高速域でも良好。やや人為的な感触もあるが、M5コンペティションよりもスタビリティは高く感じられる。これもドイツでは有用だ。
専用のサスペンション・セッティングが大きく関係しているのだろう。加えて低速域やきついコーナーでもその恩恵は高い。ターンインの鋭さに変化はないものの、より歯切れがいい。このボディサイズのクルマとしては、珍しい。
フロント・サスペンションはアンダーステアという言葉を知らない印象。小さくはないACS5が、まるでレッドブルのエアレーサーのように細い道を駆け抜ける。
強力なトラクションのおかげで、確実にボディを進めていく。引き上げられた機敏性と落ち着きは、出発地から目的地への移動速度を更に高める。
その走りを叶えているのは、KW社製のスプリングとコイルオーバー・ダンパー。いかにもシュニッツァーらしい。ダンパーはリバウンドに加えて、低速と高速での圧縮を手動で調整が可能。車高は30mmの範囲で変更できる。
大きなボディが内包する圧倒的な能力
試乗車はサーキット走行に合わせて設定してあり、乗り心地は硬い。しかし路面の荒れた状況は車内に過剰には伝えず、居心地は充分に良かった。M5の肉厚なシートのおかげもあるだろう。長距離でも上質で快適な走りを目指した、M5のシャシーの存在も大きい。
ACS5はまるでスポーツカーのように、サスペンションをほぼ伸縮させずにコーナリングする。4輪駆動システムとM5固有のバランスの良さで、ドライバビリティに大きな欠点はない。唯一、轍にやや足を取られやすいことくらいだろう。
大きなボディが内包する圧倒的な能力で、極めて高速で運転する自信を抱ける。4輪駆動モードのままでも、後輪駆動に変更していても、リアタイヤをスライドさせることも難しくない。
長いホイールベースと強大なトルクによって、M5とその派生モデル、アルピナB5やこのACS5はオーバーステアを好む。だがACS5の場合、グリップとスリップとの境界線がより高い。おふざけをする気持ちは、他のモデルよりは控え目になると思う。
そのかわり、クルマのグリップレベルは高く、ハンドリングはよりタイトだ。
付け加えるなら、インテリアで選べるオプションが少ないこと。シフトパドルとブランドロゴが入ったiドライブのロータリー・スイッチ程度。エクステリアほど個性は出せないが、逆にそれが良いのかもしれない。
排気抵抗が少なそうな、スポーツエグゾーストも良く検討した方が良い。オリジナルと同様に、特に音響が魅力的というわけでもない。スポーツモードを選ぶと、プロボクサーがパンチのラッシュを浴びせるように、激しく弾けるサウンドが襲ってくる。