【喜びは一般道からサーキットへ】アルピーヌA110 S 試乗 引き締まった足と+40ps
公開 : 2020.01.22 10:20 更新 : 2021.05.13 12:00
コーナーを曲がれば気づく性格の違い
いざ走り出して興味深いのが、292psを絞り出す1.8Lターボエンジンを急き立ててコーナーを3つも曲がれば、A110とA110 Sとが驚くほど異なる性格だとわかること。
Sの方がステアリングはよりダイレクトではある。でも率直にいって、7割くらいのオーナーの場合、SではないA110の方が気に入ると思う。
カーブの続く道を全力で走らせるような場面では、Sの方が足回りが硬いぶん、ディフューザーを路面に擦るようなことは少ないだろう。それでもベースモデルが備えている、突出した滑らかでしなやかな足さばきには至っていない。間違いなくA110の輝く個性だと思う。
Sも素晴らしいドライビングが楽しめるものの、その違いは小さくない。シャシー性能を引き出し、柔軟性と操縦性のスイートスポットに持ち込める速度域は、標準のA110と同様に100km/hを超える必要もない。だが、足の硬さが消えることはないのだ。
アルピーヌA110の好ましい個性として、アウト側に荷重が移動して発生するロール・オーバーステアがある。一方でSの場合は、足回りが引き締められたぶんロール・オーバーステアが穏やかになり、ウェット路面では逆にアンダーステアが徐々に出てしまう。
とはいっても、全体的に素晴らしいドライビングフィールにおける、ごく小さなネガティブ要素に過ぎない。標準のA110より、より真剣に走りにフォーカスしていることは明らかでもある。
A110がSになっても、1日中運転していたいと思えるクルマに変わりはない。若干高められたパフォーマンスが、楽しさを奪ったということはない。他のクルマには真似できない個性で、ミドシップ・リアドライブとしての喜びを堅持している。
一般道よりもサーキットでの楽しさ
最高出力が292psになった、パワーアップの実感は乏しい。デュアルクラッチATの許容値の都合で、最大トルクが32.5kg-mのままなことが原因だろう。だが、一般道ではより扱いやすくなっている。
最大トルクの発生回転域は、2000rpmから6400rpmまでと拡大。アルピーヌA110にとって、パワートレインがさほど魅力的な要素ではないということにも変化はなかった。クルマを進めるための上質なツールといったところ。
もしサーキットでの走行会にしばしば繰り出すのなら、A110 Sを検討しておきたい。反面、一般道での走行が中心であれば、Sは懐の深さが半分くらい浅く感じられるかもしれない。長距離ドライブでのマナーや日常的な親しみやすさも、標準モデルと比べれば明確に劣っている。
アルピーヌA110は、しなやかな乗り心地と充分に居心地のいい車内を持ち、クルージング時の燃費も15.9km/Lと良好。グランドツアラーにもなり得るという、比類のない能力を兼ね備えている。Sを選ぶなら、乗り心地に関しては期待しない方が良いだろう。
アルピーヌA110がSとなっても、小柄で軽量な素晴らしいスポーツカーだという事実は揺るがない。明確に一般道よりもサーキットでの楽しさに重心が寄っている、というだけではある。アルピーヌが狙った通りというなら、そういうことだ。
アルピーヌA110 Sのスペック
価格:5万6810ポンド(812万円)
全長:4180mm
全幅:1800mm
全高:1248mm
最高速度:259km/h
0-100km/h加速:4.4秒
燃費:15.2km/L
CO2排出量:146g/km
乾燥重量:1114kg
パワートレイン:直列4気筒1798ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:292ps/6400rpm
最大トルク:32.5kg-m/2000-6400rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック