【英国初の高速道路を闊歩】ヒーレー3000とジャガーMk2、フォード・ゼファー 後編
公開 : 2020.02.01 16:50 更新 : 2024.08.16 16:36
ロンドンからリーズまでを結ぶ英国初の高速道路、M1。英国の自動車産業に革命をもたらし、オースチン・ヒーレーやジャガー、フォードへも大きな変化を与えました。当時の3台を並べてみると、1959年のM1の様子もよみがえるようです。
警察に選ばれたフォード・ゼファー
高速道路のM1に先駆けて、長さ115kmのプレストン・バイパスが開通すると、警察は一般道でも変わらず高速で走行するクルマの取り締まりに忙しくなった。道路建設に携わったレイン・コンストラクション社は、完成した高速道路をサーキットのように走る危険性を、ドライバーへ警告する義務が生じた。
英国では1960年まで車検制度が存在しなかった。ベッドフォードシャー警察は、エンジンが丸ごと路面に転がり落ちたクルマに対応することもあったという。
英国市民は、陽気な雰囲気で作られた安全啓蒙映像を無視。高速道路のM1を、歩いたり、逆走したりした。中央分離帯はなく、Uターンも無理ではなかった。
だが文化歴史に詳しい作家、ジョー・モランも記しているが、警察官もかなりのルール違反を犯していた。一般市民は、警察官の行動を真似ていたに過ぎない側面もある。
スピードにとりつかれた市民を取り締まるため、M1の開通した地域の警察には、フォード・ゼファーMkII ファーンハム・エステートが配備された。今回の1961年式フォードも、ハートフォードシャーのパトロールカーとして活躍していたクルマだ。
1956年当時、フォードにはMkII コンサル、ゼファー、ゾディアックの人気3兄弟がいたが、警察にはゼファーが人気だった。警察車両として、EDアボット社によりステーションワゴンへと変更されている。
大きくなった荷室には、パンク修理キットや12本の三角コーン、牽引チェーン、赤色バッテリーライト、救急キット、オレンジ色の安全チョッキ、シャベルに消化器、警告標識などが積まれた。連続した高速走行で燃費が悪化することを理解していなかったドライバーのために、ガソリンの携行缶も搭載していた。
ミニカーになるほど浸透したパトカー
一方で英国人にとって、ゼファーMkIIはアメリカンな存在感を放つ、エキサイティングなクルマでもあった。うっかり過ちを犯したドライバーは、M1をパトロールするゼファーに積まれた拡声器から警告を受け、驚かされたことだろう。
フォード・ゼファーMkIIのリアタイヤは、重たい荷室とクロスプライ・タイヤのおかげで濡れた路面では滑りやすかった。バキュームポンプで動いたリアワイパーは時代錯誤の代物。双方向無線は受信状況が悪く、満載した装備によって112km/h以上での走行も難しかった。
白く塗られたゼファーのパトカーは今となっては珍しい。高速道路でもよく目立ち、抑止力として機能するように選ばれたカラーだ。
このゼファーのパトカーは、コーギー製のミニカーが作られるなど、英国市民へと浸透。アメリカのTVドラマ、ハイウェイ・パトロールに登場するパトカーと比較されたりもした。ゼファーの青い点滅灯がリアミラーに映ったら、アメリカのルート5を旅している気分になれたのかもしれない。
このフォード・ゼファーMkII エステートは、警察が直面していた危険性も示している。過去に重大な事故にあい、大きな修理を受けている。完成当初のM1は路肩が狭く、故障したトラックが停止すると、走行車線にはみ出てしまったほど。