高速道路が及ぼした英国への変化

2005年、このフォード・ゼファーはハートフォードシャー歴史協会から、フォード・ヘリテイジへ寄贈された。見当違いのヒッチハイカーにも対応し、できたてのM1のために活動してきた貴重なクルマだ。その際に行われたレストアでは、地元大学の学生とともに進められたという。

英国運輸省は1965年12月22日に、一時的な速度制限として時速70マイル（112km/h）を設定する。オースチン・ヒーレー3000とジャガーMk2 3.8の生産が終了した1967年には、恒久的な最高速度となった。

この3台を、フォードのダントン技術センターで集合させると、1959年のM1の様子が再現できる。6気筒エンジンが発するメカニカルノイズの合唱に興奮するが、60年前はこんなに道幅は広くなかった。

「幅の広い6車線道路は、田舎を壊し、町や村という存在をなくしてしまうでしょう。小さな町とパブで溢れた島国というイメージを奪います」　とイギリスの新聞、オブザーバー紙は表現した。

グラフィック・デザイナーのカルバートとキネアールが考案した青い道路標識も、先の見えない英国の姿を連想させたかもしれない。高速道路の登場で、道は純粋に「移動」のための場所に変わった、と書いた人がいた。古風で趣のある町並みが、計画性と合理性を重んじる姿に変えていく様子を、多くの人は悲観的に捉えた。

だが実際は、蒸気機関車も、俳優ジェームス・ロバートソン・ジャスティスの映画も、ショッピングモールや近代化する街とともに共存している。高速道路のM1は観光スポットにもなり、ロンドン交通局は観光客向けにM1を走るツアーバスを用意しているほど。

変化へ滑らかに対応していた2台

オースチン・ヒーレー3000もジャガーMk2 3.8も、この道路網の変化を映し出したクルマだと思う。ボディデザインは1950年代初頭のまま。スターターボタンなどの装備も、1960年には古びたものになっていた。

でも、英国で初めて開通した高速道路、M1を我が物顔で走った2台だ。単に英国製の素晴らしいクラシックカーというだけではない。伝統的な自動車が、新しい時代に滑らかに対応していった姿を表している。

どこか緊張感のないフォード・ゼファーMkII エステートのパトカーを見返したら、思いふけっている自分に気付いてしまい、可笑しかった。

3台のスペック

オースチン・ヒーレー3000 MkI（1959年〜1961年）のスペック

価格：新車時　1168ポンド（16万円）／現在　7万ポンド（994万円）以下
生産台数：2825台（BN7）
全長：4001mm
全幅：1537mm
全高：1245mm
最高速度：183km/h
0-96km/h加速：11.4秒
燃費：7.4km/L
CO2排出量：−
乾燥重量：1143kg
パワートレイン：直列6気筒2912cc
使用燃料：ガソリン
最高出力：125ps/4600rpm
最大トルク：22.3kg-m/2700rpm
ギアボックス：4速マニュアル＋オーバードライブ

ジャガーMk2 3.8（1959年〜1967年）のスペック

価格：新車時　1779ポンド（25万円）／現在　3万6000ポンド（511万円）以下
生産台数：3万141台
全長：4591mm
全幅：1695mm
全高：1432mm
最高速度：201km/h
0-96km/h加速：8.5秒
燃費：7.4km/L
CO2排出量：−
乾燥重量：1448kg
パワートレイン：直列6気筒3781cc
使用燃料：ガソリン
最高出力：223ps/5500rpm
最大トルク：22.3kg-m/2700rpm
ギアボックス：4速マニュアル＋オーバードライブ

フォード・ゼファーMkII エステート（1959年〜1962年）のスペック

価格：新車時　1010ポンド（14万円）／現在　2万5000ポンド（355万円）以下
生産台数：5643台
全長：4585mm
全幅：1702mm
全高：1572mm
最高速度：141km/h
0-96km/h加速：18.7秒
燃費：8.1km/L
CO2排出量：−
乾燥重量：1287kg
パワートレイン：直列6気筒2553cc
使用燃料：ガソリン
最高出力：86ps/4440rpm
最大トルク：18.3kg-m/2000rpm
ギアボックス：4速マニュアル＋オーバードライブ

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