【歴史の1ページ】ベントレー、60年間なぜ同じエンジンを作り続けたのか? 生き残ったワケ

公開 : 2020.01.24 16:50  更新 : 2021.10.09 23:54

60年間には様々な時代変化があった

「6 3/4リッター」は、オーナーが自らステアリングを握る、オーナーカーでの走りの愉しさを引き出してくれる。

また、専属ドライバーにステアリングを託してリアシートで寛ぐ、ショーファーカーとしても快適なハイスピード移動が楽しめる。

これぞ、60年間に渡る熟成だ。エンジンは、生き物である。

別の視点で、「6 3/4リッター」が60年間生き続けてきた理由を考えてみると、世界的なプレミアムブランドにおけるV8エンジンの変遷が影響していると思う。

70年代のオイルショックと排ガス規制強化まで、プレミアムブランドでは大排気量化が進んだ。その結果、欧州ではV型12気筒、アメリカでは7Lや8L級のV型8気筒がフラッグシップモデルに採用された。

その後、燃費と排ガス規制により、自動車産業全体としてエンジンの小型軽量化が主流となり、プレミアムブランドでも大型エンジン開発への歯止めがかかった。

時代がさらに進み、90年代になるとメルセデス・ベンツのアフター系市場が活発化し、V8を基調としたチューニングが進む。

一方、日系各社がプレミアムブランドを立ち上げる中で、最上級モデルにV8を設定した。

こうした中で、「6 3/4リッター」が生き続けるための市場が途絶えなかったといえる。

一方、ベントレーフォルクスワーゲン・グループ傘下なる中、伝統の逸品というブランド戦略の一環として、「6 3/4リッター」の存在意義は高まった。

では、なぜこのタイミングでベントレーの「6 3/4リッター」は姿を消すことになったのか?

なぜ、「6 3/4リッター」は消えるのか?

では、なぜこのタイミングでベントレーの「6 3/4リッター」は姿を消すことになったのか?

最大の理由は、フォルクスワーゲン・グループが2016年に発表した中期経営計画「トゥギャザー」だ。

ベントレーのフラッグシップが、ミュルザンヌからフライングスパーとなり、 また2023年までにベントレー全モデルでハイブリッド車がオプション設定となる。
ベントレーのフラッグシップが、ミュルザンヌからフライングスパーとなり、 また2023年までにベントレー全モデルでハイブリッド車がオプション設定となる。

中核となるのが、EVシフト。世界的な電動化の流れにいち早く乗ろうという戦略だ。

EVについては、中国の新エネルギー車政策と、米カリフォルニア州でのゼロエミッションヴィークル(ZEV)規制が、事実上の販売台数規制である。

また、欧州CO2規制が2021年から強化され、今後さらにハードルが上がることで欧州委員会での協議が続いている。

そうした中、フォルクスワーゲン・グループでは、フォルクスワーゲン、セアトスコダアウディポルシェランボルギーニ、そしてベントレーでEVまたは、プラグインハイブリッド車を強化する。

その中で、ベントレーのフラッグシップが、ミュルザンヌからフライングスパーとなり、 また2023年までにベントレー全モデルでハイブリッド車がオプション設定となる。

世界で最も長く量産されてきたエンジンと呼ばれる、「6 3/4リッター」。ベントレーの歴史の1ページとなり、現役を退く。

記事に関わった人々

  • 桃田健史

    Kenji Momota

    過去40数年間の飛行機移動距離はざっと世界150周。量産車の企画/開発/実験/マーケティングなど様々な実務を経験。モータースポーツ領域でもアメリカを拠点に長年活動。昔は愛車のフルサイズピックトラックで1日1600㎞移動は当たり前だったが最近は長距離だと腰が痛く……。将来は80年代に取得した双発飛行機免許使って「空飛ぶクルマ」で移動?

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