【石油王が求めた贅沢】メルセデス・ベンツ600 グラスルーフに広がる欲望 後編
公開 : 2020.02.08 16:50 更新 : 2022.08.08 07:51
真の巨像だといえるW100
ところがグルベンキアンの父が亡くなると、不運が襲う。特に給料ももらわず父のために働いていたグルベンキアンだが、相続争いに巻き込まれた。裁判の結果、当時で4億2000万ドル(500億円)といわれた資産のうち、250万ドル(3億円)のみを引き継ぐこととなったのだ。
グルベンキアン自身は1972年にこの世を去る。コレクターは家族の伝統を破り、この個性的なメルセデス・ベンツ600は庭師へ寄贈。彼はポルトガルまで船で運んだ。
それから30年ほどポルトガルで過ごした600。長い間ひっそりと暮らしていたにも関わらず、フランス南部のリビエラで、月夜に照らされて走っていた頃の記憶が伝わってくる。
数ある歴史的な高級車の中でも、メルセデス・ベンツ600は真の巨像だといって良い。先進的な技術を積極的に採用し、W100は20年近くに渡って、大型サルーンのリーダーに君臨した。メルセデス・ベンツにとっても、最も長寿命となったモデルの1台でもある。
グルベンキアンが初代オーナーだった600リムジーネは、その中でも貴重車中の貴重車。オーナーが求めた途方もない贅沢さと、限りのない野望を映し出しているようだ。
欲望と欲求、最高の娯楽を求めて、惜しみなくお金が投じられたメルセデス・ベンツ600リムジーネ。彼の人生において、特定の機械は人間以上の存在だったのだろう。
メルセデス・ベンツ600(1963年〜1981年)のスペック
価格:新車時 8万2000マルク(656万円)/現在 40万ドル(4320万円)以下
生産台数:2677台
全長:5450mm
全幅:1950mm
全高:1500mm
最高速度:204km/h
0-96km/h加速:9.3秒
燃費:4.1km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:2600kg
パワートレイン:V型8気筒6332cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:250ps/4000rpm
最大トルク:50.9kg-m/2800rpm
ギアボックス:4速オートマティック