【JLRラルフ・スペッツCEO退任】ジャガー・ランドローバー復活の立役者 功績を振り返る
公開 : 2020.02.06 20:25
約10年にわたりジャガー・ランドローバーを率いてきたラルフ・スペッツCEOの今年9月での退任が発表されました。その任期中に数々の魅力的なモデルを送り出すことに成功したスペッツ博士の功績を、英国版AUTOCARクロプリー編集長が惜別の辞とともに振り返ります。
今年9月で退任
ジャガー・ランドローバー(JLR)のラルフ・スペッツCEOの今年9月での退任が発表された。
親会社であるタタ・モータースのナタラジャン・チャンドラセカラン会長名で発表された声明では、スペッツ博士が「執行権を持たない副会長として、引き続きジャガー・ランドローバーでの役割を果たしていくことに合意した」としている。
さらに、博士は持ち株会社であるタタ・サンズの取締役会メンバーにも留まるようだ。
後任を指名するための委員会が発足したことをチャンドラセラカン会長は明らかにしており、彼はスペッツ博士の「タタがフォードからJLRを買収して以来、10年に渡る情熱と専心」に謝意を表明している。
英国版AUTOCARクロプリー編集長 惜別の辞
単なる偶然だろうが、英国のEU離脱に続くスペッツ博士退任のニュースは、これ以上ないタイミングだったと言えるだろう。
国民投票でブレグジットが決まる数年前から、スペッツは英国のEU離脱という考えを公然と批判していた。
一般の有権者から首相まで、彼の声に耳を傾けるあらゆるひとびとに対して、もし英国とEU各国、さらにはそのグローバルな顧客を繋ぐ複雑な関係が断ち切られることになれば、英国自動車産業は大きなダメージを受けることになると警告を発していたのだ。
そして、多くの重要な点でこの博士の警告が正しかったことが証明されている。英国自動車産業は急激にその勢いを失い、残念ながらこの傾向は今後数年間続くことになるだろう。
スペッツ博士にとって、JLRの成功がもっとも重要だったことに疑いの余地はない。
その在任期間中、このふたつのブランドを持つ自動車メーカーを英国最大、且つ圧倒的な収益力を誇る企業へと変貌させることに成功している。
だが、2017年には市場の急激なディーゼル離れと中国市場の失速によって、JLRの業績も大きな影響を受けており、巨額の損失を計上するとともに、予想もしなかった4500名ものレイオフと25億ポンド(3562億円)のコスト削減を余儀なくされている。
博士の功績
それでも、こうした取り組みの結果、JLRの業績は回復し6カ月前には黒字化を達成している。
しかし、業績の浮き沈みもスペッツ博士が残した功績を損なうものではないだろう。
彼は英国最大の自動車メーカーを創り上げるとともに、高コスト体質と将来的な財政危機への布石として、ブラジルとスロバキア、そして中国に製造拠点を設けている。
さらに、若きエンジニアとして過ごしたBMWでの経験をもとに、JLRに新たな規律をもたらすことに成功しており、現在JLRとBMWとの関係はより緊密さを増しつつあるようだ。
スペッツはJLRのオーナーであるインドのタタ・サンズとも素晴らしい関係を築いており、タタによるJLRの買収は英国に大きな衝撃をもたらしたものの、この買収劇を主導し、いまもJLRに影響を与え続けているラタン・タタにはつねに特別な敬意を払っている。
スペッツのクルマに対する生来の愛情が、市場に高く評価されるランドローバーとジャガーの各モデルの誕生へと繋がっている。
さらに、つねに進歩を求めるスペッツの情熱がジャガーIペイスという魅力的なプレミアムEVを生み出したのであり、このクルマはドイツ勢のライバルに先立つこと1年前に発売が開始されている。