【最新技術がクラシックモデルを救う】3Dプリンターの実力 恩恵は幅広く
公開 : 2020.02.23 18:50
経験が重要
いま測定しているのはアルタが1952年に送り出したグランプリカーのディフェレンシャルケースであり、内部にあるネジ穴を含め、すべての面のデジタルデータを計測している。
こうして得られるのが、3Dプリンターで必要なCADデータや加工図面に変換可能な、正確なデジタルモデルだ。
「『ガスケットからギアボックスまで、スキャンして、図面化して、製作して』というのがわれわれのモットーです」と、ピューは話す。
「レーザースキャンと3Dプリンターがあればさまざまなことに対応出来ます」
「例えば、クラシックモデルのオーナーがデジタルデータを保存しておけば、万一の事故の際にもボディパネルの再生産が可能です。樹脂で成形したパーツは鋳型の雄型や、フィッティングと機能性の確認にも使うことが出来るのです」
彼は事前に3Dプリンターで成型しておいたアルタのディフェレンシャルケースの半分をその例として見せてくれた。
内部にはオリジナルのクラウンギアとピニオン、そしてリミテッドスリップディフェレンシャルが組み込まれており、それぞれがピッタリとあるべき場所に収まっていることを確認することが出来る。
だが、例えこの作業がセンサーを動かしてマウスをクリックするだけに見えたとしても、重要なのはデータの理解と製作面から見て何が可能かを判断することだとピューは強調する。
大学で機械工学を学んだエンジニアのピューは自らの経験に基づいて話をしているのだ。
フォードやアストン マーティン、ジャガーといったメーカーからのオーダーを受けるようになる前、彼はそのキャリアをINRacingのメカニックとしてスタートさせている。
実際、1台目のスキャナー購入資金として12万5000ポンドをピューに出資したのはナットヒルだった。
誇るべきプロジェクト
いまでは4台のスキャナーと3Dプリンターを使って、ピューはさまざまなパーツを創り出している。
そのなかには、改良を加えることで強化を図ったルノー5ターボ向けサージ防止用バッフル付きオイルパンや、ボルボ242 GT用ボールハウジングとディフェレンシャルケース、さらには、E30世代のBMW M3用ドアハンドルといったものが含まれている。
それでも、彼にとって誇るべきプロジェクトのひとつが、サルーンモデルと写真しか参考資料がないなか製作を進めている、非常に希少な戦前のクーペのデジタルモデルだ。
ピューは、「参照出来る実車がなかったので、サルーンモデルのシャシーとステアリングホイール、リアアクスル、さらにはエンジンをスキャンして、クーペの骨格と主要コンポーネントの登載位置を決定しています。その後、スキャンしたデータをもとに過去の写真から再現したクーペボディを載せてみて、面の向きや曲線を調整しています」と、話す。
「ここで頼りになるのは人間の目です。ボディのシェイプが決まると、3Dプリンターで1/8のスケールモデルを成型しています。このスケールモデルから、トネリコ材で出来たボディフレームの寸法を決定したのです」
そしていまわれわれが工場で目にしているのが、途中まで組み上げられた実寸のフレームであり、まるで非常に複雑な組み立て式家具のように見える。
だが、これこそが長い間失われていたモデルが、最新のテクノロジーによって復活を遂げようとしている興味深い物語なのだ。
ピューのオフィスを出て、INRの工場に置かれたさまざまな過去の名車を目にすれば、最新技術が救い出そうとしているヒストリックモデルというのが、あのフレームだけに留まらないことは明らかだった。