【あるガレージの挑戦】EVビートルで復活 見つめるのは未来
公開 : 2020.03.20 18:50
2017年、英国グレンフェルタワーを襲った火災により一時は倒産の危機に瀕していたガレージが、自らの能力を示すべく創り上げた1台のEVビートルをきっかけに見事な復活を遂げています。明るい未来を実現すべく、現状に留まることなく前進を続けるガレージの物語です。
火災の影響
ロンドンはノッティングヒルにあるジャックズ・ガレージは大忙しだ。
リフト上では2代目ゴルフのオーバーホール作業が進められ、ボディショップでタイプ2キャンパーにパーツの組みつけが行われているなか、電話がけたたましく鳴り響いている。
あの悲劇的な火災の余波を受け、ちょうど1年前にはこのフォルクスワーゲンのクラシックモデル専門店が倒産の危機に瀕していたなどとは想像すらできないだろう。
もちろん、67mの高さで背後に迫るグレンフェルタワーの存在を意識しない訳にはいかない。
白いシートが大規模な火災の痕跡を覆い隠しているが、2017年の出来事はいまもハッキリとその傷跡を残している。
12年間ジャックズ・ガレージを続けてきたオーナーのジョセフ・サラマは、あの火災の後の数カ月間、タワーに近いというだけで、どれほどガレージの経営が影響を受けたかを話してくれた。
「パーツは届かず、お客様も車両の引き取りや持ち込みが出来なくなりました」と、サラマは言う。
さらに、タワーの惨状を見て取り乱す顧客を落ち着かせる必要が何度もあったそうだ。
「タワーに近いというだけで、多くのひとびとがガレージに近づこうともしません」と、サラマは話す。
「意識するしないにかかわらず、現場近くに来るか来ないかを選べるのなら、多くのひとびとが来ない方を選択するでしょう」
2017年のクリスマスが近づいても、売上は過去最低の状況が続いており、サラマに残された道はガレージの規模を縮小することだけだった。
「スタッフの多くが自ら退職を申し出てくれましたが、それでも何人かは解雇せざるを得ませんでした」と、彼は言う。「スタッフの数は半分以下になりました。かつては14人でしたがいまは7名です」
状況は最悪 変化が必要
クリスマス休暇に入る2日前、差押え通知を受けたサラマは、未払いとなっていた電気料金を支払うためには自らの給料を差し出すほかなかった。
状況は最悪であり、何か変化が必要だった。
そして、その変化がいまガレージの外に停められている黄色いビートル・コンバーチブルだったのだ。
このクルマを何気なく目にしたひとは見事なレストアが施された1台にしか見えないだろうが、本来伝統ある空冷エンジンが収まっているべき場所にあるのは、e-Upから取り外されたボッシュの電気モーターだ。
これを冒涜というひともいるかも知れないが、自ら「信者」だと自認するサラマはどうやら違う見解を持っているようだ。
「このクルマは信じられないほど洗練された走りを見せてくれます。重量配分とハンドリングが素晴らしいのです」と彼は言う。
このクルマの運転は「驚くほどエキサイティング」であり、おまけに「恐ろしく速い」とも言う。
このEVビートル(サラマはこのクルマのことを「バンブルビー」と呼ぶがその理由については説明不要だろう)は、ドイツのクラシックカー専門ショップ、eClassicsの作品であり、わずか10台のみが創り出されたプロトタイプのこの1台は、彼らとジャックズ・ガレージとの新たなパートナーシップを象徴する存在としてここに置かれている。
昨年のフランクフルトモーターショーで見せた素晴らしいプレゼンテーションによって、サラマはeClassicsの英国におけるパートナーの地位を獲得することに成功したのであり、今後数カ月のうちには右ハンドル仕様のEVビートルがジャックズ・ガレージから送り出されることになるだろう。
このプロジェクトに対する情熱を示すことは難しくなかったものの、彼の魅力あふれるオールドスタイルのガレージが、こうした先進的なテクノロジーに対応できることの証明が課題だったとサラマは話す。