【スーパーカーと1万km】マクラーレン720S(最終回) 消えない記憶 長期テスト
公開 : 2020.02.23 11:50
素晴らしいコーナリング性能を備えたマクラーレン720S。最も優れたドライビングマシンの1台であることに間違いありません。そんなスーパーカーと毎日をともにした長期テストも、今回で最終回。期間を通じた印象を振り返ります。
積算 1万335km 720Sと一緒に暮らす
遂に最終回になってしまった。筆者がスーパーカーのオーナー気分が味わえた時間も終わり。720Sは英国ウォーキングにあるマクラーレンの技術センターへ戻り、おそらく幸せな新オーナーを迎える準備をすることになる。
この長期テストでは、通常のオーナーが3年を掛けて走る以上の距離を走行した。普通なら除湿されたガレージから出ることがないような、悪い天気の日にも乗ってきた。
むしろ、このマクラーレン720Sはボディカバーを掛けた夜を過ごしたことすらない。サーキットを走り、スイス・ジュネーブまで往復し、思い出せないほど多くのワイディングも走った。
日常の足としても積極的に利用した。ヒツジのエサやドッグフードを積んだり、学校への送迎に何度も使った。空港の長期用駐車場にしばらく停められていた日も少なくない。一緒に住む娘は720Sに乗るのを喜んだし、離れて住む大学生の娘は乗れないことを悔しがっていた。
上に跳ね上がるディヘドラル・ドアは多くの場面で便利だったが、720Sの隣にどんなクルマが停まるのか、リスクはあった。BMW i8と同じように、乗り降りできなくなる可能性があるからだ。
今回の長期テストの目的は、クルマの速さや楽しさを証明することではない。それは通常の試乗記事を読んでいただければ、遥かによくわかるだろう。
一緒に暮らしてみる、ということに焦点を当ててきた。720Sの運転がとても魅力的だということは、既に重々承知だった。
スーパーカーとして完璧な仕上がり
720Sを数年間所有するような通常のオーナーにとって、クルマの仕上がりは素晴らしいと断言していい。信頼性は完璧といえるほどで、クルマが目指したであろう目的に対して違和感のある部分はない。
マクラーレンを専門とするアラステア・ボルスのスタッフと話したことがあった。初期のクルマが抱えていたソフトウエアの不具合は修正済みで、機械や構造面と同様に、電子的な面でも堅牢性がは高いと評価していた。販売する側だから否定的なことはいわないかもしれないが、わたしの経験も同様だ。
そして、このスーパーカーという水準の中で、マクラーレン720Sは例外的といえるほど暮らしやすいクルマだった。スーパーカーの中で最も乗り降りがしやすいと思う。BMW i8より。
運転席からの視界も突出して良い。これほどの全幅を持つクルマにとって重要なポイントでもある。
ランボルギーニ・アヴェンタドールSVJは、マクラーレンとはまったく異なる運転感覚ではあったが、運転が極めて難しく、威圧的なものに感じた。つまり、速く走ることも難しいということでもある。
筆者は特に、720Sのダッシュボードのデザインと、情報の表示方法が気に入っている。メーターパネルを回転させると、レブカウンターとスピード、燃料計だけを表示できる。サーキット走行だけでなく、夜道での運転でも視認性が素晴らしい。
かつて、スウェーデンのサーブには、夜間走行時にスピードメーターだけを灯せる「ナイトパネル」 という表示があった。なぜ他のメーカーも真似をしないのか、疑問を感じていたのだった。