【世界初のDOHC量産マシン】フランスが生んだサルムソンGS8ロードスター 後編

公開 : 2020.03.01 16:50  更新 : 2022.08.08 07:51

車重350kgに最高出力27ps

エンジンには多くのバリエーションが誕生。サーキットで圧倒的な強さを見せた、8プラグ(ツインプラグ)ユニットも登場した。だが、GS8ロードスターのエンジンは、1922年に開発された初期のツインカムエンジンと多くの部分を共有している。

圧縮比は5.8:1で、最高出力は27ps/3300rpm。数字はかなり控えめだが、戦前のレーシングシャシーを持つサイクルカーの重量は、わずか350kgしかない。充分なパフォーマンスを与えた。

サルムソンGS8ロードスター(1927年)
サルムソンGS8ロードスター(1927年)

当時のサルムソンGS8のパンフレットには、「スピードを目的とするドライバーへアピールする」クルマだと記されている。

今回のサルムソンGS(グランドスポーツ)8は、4番目に製造されたもの。1928年にドイツ・ケールへと運ばれ、美しいロードスターのコーチワークボディが与えられた。

アメリカの軍人がオーナーとなり、第二次大戦が終わるとクルマはミネソタへと持ち込まれた。1954年に転売され、2017年に英国のDMヒストリックスへとやってきた。大幅にレストアを受け、グレーの内装とオリジナルの2トーンカラーのボディが蘇っている。

サルムソンGS8の弱点を挙げるなら、3速マニュアルのトランスミッション。スムーズな変速を支えるシンクロメッシュがなく、1速が右側で3速が左側と、通常とは逆向きのレイアウトが特徴といえるだろう。

宝石のように輝く戦前のツインカム

たとえ戦前のモデルだとしても、当時基準で見ても変速は難しく、操作は丁寧に行う必要がある。街なかだけでなく、カーブのある郊外の道でも扱いにくい。同時期のライバルモデルは、既により滑らかな4速トランスミッションを装備していた。

一方で宝石のように輝くロングストローク型のエンジンは、スピードを順調に乗せていく。美しく回転するツインカムは、GS8のカナメといえるだろう。もし勇気を振り絞れば、100km/hを越えることも不可能ではない。

サルムソンGS8ロードスター(1927年)
サルムソンGS8ロードスター(1927年)

「条件の良い開けた道なら、古いサルムソンは本来の力を発揮できます。最高速度が高いわけではありませんが、長い距離でもアクセルを踏み込んで走り続けられます」

「低速ギアではうるさく、疲れます。街なかや制限を受ける郊外の道では、遅く感じてしまいます」 と、戦前に活躍した英国人写真家のガイ・グリフィスはモータースポーツ誌で述べている。

サルムソンGS8ロードスターのパフォーマンスは、グリフィスが試乗した頃より間違いなく色あせているだろう。だが、ツインカムエンジンを搭載した世界初の量産ツーリングカーとして、クルマとしての重要性は色鮮やかなままだ。

希少性とエレガントさ、卓越した技術力。戦前の自動車業界で、これほど優れたクルマは、多くはなかったはずだ。

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