【ザガートのボデイにクライスラーのV8】ブリストル412コンバーチブル 前編
公開 : 2020.03.07 07:50 更新 : 2022.08.08 07:51
戦前のBMWの流れをくむシャシー
V8エンジンを搭載したブリストルは、407から408、409、410へとアップデート。10年間の間に速く、高級な車へと少しずつ進化する。その当時、クーペのブリストル411は最も鋭い加速が味わえるフル4シーター・モデルだったといえる。
長い全長の割に全幅は狭く、空気には優しくなさそうな切り立ったボディ。401以来で、412は最も鮮烈な印象を与える、現代的な見た目のブリストルだった。
長方形のヘッドライトに、大きくサイドへ回り込んだバンパー、ボディ面と一体化したドアハンドルなどは、1970年代スタイルだ。初期の412は驚くほど美しい。
筆者にとって、ブリストルのボディカラーはとても重要。1930年代風のプロポーションに、エッジの立ったデザインだから、色味によっては現代的な印象を得ることが難しい。
内側にはブリストル自慢の古いボックス・セクション・シャシーが隠れている。戦前のBMWの流れをくむ、2896mmのホイールベースは1947年のブリストル400と同じ長さ。トニー・クルックの独断による、30年に及ぶ開発と改良を示すものだ。
抜本的な設計変更を与える資金はなかったが、クルックは年代物のシャシーが持つ、安全性という特徴に注目する。事故での衝撃にも強いうえ、綺麗にレイアウトされたリジッドアクスルによって、安定したハンドリングを備えていた。
長いフロントノーズを持ち、フロントフェンダー内にはスペアタイヤとバッテリーを搭載することが可能。おかげで、大きな荷室を邪魔するものはな何もない。
ザガートが手掛けたボディデザイン
パワーステアリングも搭載されたが、感触やフィードバックは変わらず得られている。手作りの品質と、航空機の製造を起源とする技術力。ブリストルは超音速旅客機のコンコルドを生み出したBAC社の一企業でもある。
そんなブリストルが1970年代に生み出した、225km/hの最高速度を持つ4シーター・コンバーチブル。今でも412には居場所があるように思える。
平面的なデザインのボディはアルミニウム製。412のボディはブリストル社内でも製造が可能で、コストの掛かるコーチビルダーへボディ成形を依頼していた411よりも2000ポンド(28万円)も価格が抑えられた。
およそ1万5000ポンド(214万円)のブリストル412コンバーチブルは、インターセプター・コンバーチブルより4500ポンド(64万円)も安価。ロールス・ロイス・ドロップトップ・コーニッシュより8000ポンド(114万円)も安かった。
412のスタイリングは、クルックとザガートとの結びつきを再確立するこにもなった。クルックは以前から英国でザガートの代理店も努めており、1960年代には406ザガートも誕生している。
デザインはザガートが1974年に生み出した、ランチア・ベータ・スパイダーから触発されたといわれる。チーフスタイリストのジュゼッペ・ミッティーノがペンを執った。
ミッティーノは当初、誤解でクルックが意図していたより60cmも長くデザインをしたようだ。ヘッドライトはオペルと共通のボッシュ社製のもの。リアライトはランチア・ベータ・スパイダーにも用いられている。