【ザガートのボデイにクライスラーのV8】ブリストル412コンバーチブル 後編
公開 : 2020.03.07 16:50 更新 : 2022.08.08 07:50
アメリカ市場を狙ったワンオフモデル
フィーリングの良いアクセルペダルを踏み込むと、マニフォールドとカーター社製の4バレル・キャブレターの圧力が等しくなり、ターボのコンプレッサーへと吸気が流れ込む。
シームレスに加速を増していくボーファイターはスリル満点。こちらも最高出力は非公開だが、追加となったパワーは、トルクフライト社のATとの相性も良い。品格を保ちながら、変速を終わらせる。
リアサスペンションはリジッドアクスルで、トーションビームとワットリンクが付いている。セルフレベリング機能も備え、加速を受け止めてくれる。コーナリング途中の不意な起伏以外、粗野な素振りは見せない。
通常の412より硬めのサスペンション設定を受けていたボーファイターだが、違いはわずかに感じられる程度。調整式で、ドライバーの好みに変更も可能だ。
トランクリッドは車内からリモート操作が可能で、電動調整ミラーと集中ドアロックも備える。クルックとエンジニアたちは、1980年代に採用が進む便利な機能をしっかり取り入れていた。
一方で、412シリーズの物語に、追伸のように登場したボーフォート。紺色のボディにロールバーは備わらず、電動のソフトトップによって完全なオープンボディになる。
アメリカ市場への足がかりとして、1台限りのワンオフで制作されたため、ボーフォートは左ハンドル仕様。パンフレットの内容に偽りのない、充分に考え抜かれた完成度を得ている。
フルオープンになるボーフォート
このボーフォートは1984年に作られたが、1988年まではナンバー登録を受けていない。ボーフォートの初代オーナーは、ブリストル・カーズのトニー・クルック本人。ソフトトップを折り畳む機構がリアシートの空間を削りすぎるため計画は中止にした、と後にコメントしている。
もともとクリーム色だったボーフォートは、エジプトのビジネスマンが買い取った。だが病気になり、ロンドンのホテルの駐車場へ放置。しばらくして中古車市場の流通に乗り、アストン マーティンのミッドナイト・ブルーに塗り直され、英国の道へ姿を表した。
ボーファイターにはフラットなダッシュパネルが採用されたが、ボーフォートの方にはクラシックな7つのアナログメーターが並ぶ。クリーム色のレザーシートに入る、青いパイピングが美しい。
ソフトトップを閉めたシルエットはかなりハンサムだが、開くとブリストル412らしい個性を失ったように見えるボーフォート。屋根を閉じると後方の視界は小さな窓で制限され、リアシートの空間も狭く、実用性は通常の412に劣る。
ソフトトップは静かに開閉し、スッキリと折り畳まれる。ロールバーのない視界はブリストル412と驚くほど異なる雰囲気を与えるが、ボーフォートは変わらず活発に走るし、振動に悩まされることもなかった。
ブリストル411は控えめな主張に留まっていたのに対し、412は、ブリストルが初めてこれ見よがしの華やかさを与えた試みだった。ブリストル版の、ロールス・ロイス・カマルグやウィリアム・タウンズがデザインした、アストン マーティン・ラゴンダといっても良いだろう。