ロードテスト ロールス・ロイス・カリナン ★★★★★★★★☆☆
公開 : 2020.03.01 11:50 更新 : 2020.03.08 03:15
走り ★★★★★★★★★☆
570ps級のロールス・ロイスを2割増しで売るのに、どれくらいパワーアップすれば価格を正当化できるか、その答えを明確にするのは簡単ではない。
あまり速くなった気がしなければ、オーナーは、たとえショーファードリブンであっても財布の紐を緩めないだろう。とはいえやり過ぎれば、懐の広いスムースなラグジュアリーさを破綻させる恐れがある。そうなっては、ロールスとしては本末転倒だ。
当然ながら、おそらくロールスは、その点を慎重すぎるほどに選択したはずだ。この現時点でもっとも大きく強力なブラックバッジであってさえだ。
このカリナンのエンジンサウンドは、普通に走っている限りは、高級車らしく上品で控えめだ。コラムマウントのシフトセレクターにあるローボタンを押すと、スポーティな唸りはごくかすかに聞こえるのみ。すぐそばで軽くモディファイしたホットハッチがアイドリングしていたら、ほとんどかき消されてしまうくらいだ。
踏みはじめのレスポンスは独特の穏やかさがある。まるで、急ぐことはロールス的になにより下品なことだといわんばかりだ。ゼロスタートでベタ踏みしても、走り出しの数mはどこまでもスムースで落ち着いたものだ。
ところが、さらに先へ進むと、加速力が高まりはじめる。まるで、エアバスA380のテイクオフを思わせるほどだ。
0-97km/hは5秒以下で、48-113km/hはたったの4.2秒。2018年にテストしたファントムを凌ぐ数字だ。
スタンディングスタートでは、最新のベンテイガ・スピードならもっと速いはずだし、実際にウルスはもっといいタイムを出している。それでも、カリナンの速さとシームレスさのコンビネーションは凶暴さを感じさせず、ライバルたちとはまったく異なるものだ。
追い越し加速でのレスポンスもプログレッシブ。手動変速の手段がないので、急加速をする唯一の方法は、トランスミッションのローモードを選択することだ。そうすると、右足の踏み込みへの反応は確かにクイックさを増すが、カリナンの優れた性質をややたわめてしまうようにも思える。
スポーティさを増すこともない。SUVでなくても、ロールスにそれを望むことはないだろうが。それでも、ブラックバッジの立ち位置を考えれば、ピースが抜け落ちたパズルのような印象は拭えない。