【本質を味わうには覚悟も必要】ポルシェ911カレラS 最終回 長期テスト
公開 : 2020.03.08 11:50
911ほど充足感のあるクルマもない
そしてエンジン。991型が積むのは2015年に登場したユニットだが、筆者はかなり満足している。ターボ過給で得たものは失ったものより遥かに多く、しかも、4気筒のボクスターやケイマンとも大きく異る。
フラット6は滑らかで反応も鋭く、911らしさに完全にフィットしている。高いパフォーマンスを引き出すことも容易になり、路上での難しさも少なくなった。
時々ポルシェ911に乗っているのを忘れる雰囲気も、重要だと思う。10万ポンド(1430万円)もする、レスポンスの良い、夢中になるようなスポーツカーだと意識したくない時があったりする。特に高速道路を延々と移動する時や、市街地を流しているときなど。
ヒリヒリと攻め立てて走る楽しさを、思い出したくない場面は多い。静かに安楽に、進むべき道に向き合えるクルマが欲しいこともある。
もちろん、時と場所が正しければ、目的地への移動手段として、911ほど充足感のあるクルマは他にはない。カーボンセラミック・ブレーキにスポーツクロノ・パッケージなど、走行性能を高めるオプションが数多く装備されていたから、ひとしお。
後輪操舵システムとアクティブ・アンチロールバーはなくても良かった。実際、標準のカレラSを借りて比較してみたが、ドライビング体験の差は小さかった。
ドライビング体験は素晴らしい。このカレラSが、911の中でも入口側のグレードだということに驚かざるを得ない。長期テストを終える今、さらに50psくらい上乗せしても良いと感じていることに気づいた。
911らしさを味わうには覚悟も必要
991型の911で気に入らなかった部分。2012年に初試乗をした時に感じた不満が、まだ残っている。911のドライビングは素晴らしいが、このクラスでしか到達できないような限界領域を味わうには、かなり限定的な条件が必要となることだ。
911は常に、短いホイールベースとリアエンジンという、異端児的なレイアウトに沿って、道と向き合う。つま先の操作で生き生きと走る。わずかな一挙手一投足に、常に反応できるように身構えている。それを確かめるには、限界に近づかなければならない。
これほどのパフォーマンスとグリップを備えている場合、最高の満足感を得るには、目一杯攻め立てる覚悟が求められる。あるいは、クルマの許容値がはるか上にあるという事実に気づき、畏敬の念に浸るか。
筆者は991を、911らしさを望まない人のための911、と呼ぶことがある。扱いやすいスポーツカーという姿をまとった、超高性能なポルシェ。
エンスージァストにとって、クラス・ベストだということは重要。数多くのオプションを選ぶ理由にもなる。ポルシェがSUVを大量生産する中で、まだ圧倒的な性能を誇るスポーツカーが存在しているという事実は重要であるはず。得られるものが、かつての911とは異なる喜びでも。
ポルシェというブランドにとって、その方が今は都合が良いのだ。しばらくこの関係性は続くと思う。