【007最新作の出演車両を体験】本物のDB5とレプリカ 見た目はそっくり 中味は別物
公開 : 2020.03.19 18:35
素晴らしい関係
だが、だからと言ってドリフトが難しいという訳ではまったくない。
必要以上のトルクを発揮するエンジンのお陰で、オーバーステアへと簡単に持ち込むことが出来、ドリフト状態になってもステアリングの驚くべき正確性はそのままだ。
だが、わたしが試したドライビングなど、エーススタントドライバーのマーク・ヒギンズと比べればお話にならないだろう。
ここシルバーストンを舞台に、彼の運転するレプリカの助手席でこのクルマのパフォーマンスを体験することが出来たが、そのほとんどの時間、フロントではなくサイドウインドウから流れゆく景色を楽しんでいた。
ジェームズ・ボンドのことを英国最大の文化輸出のひとつだと言っても決して大げさには聞こえないだろう。
シリーズ累計で、世界中で約55億ポンド、物価上昇率を考えれば90億ポンド(億円)以上の収益を上げている。
「ゴールドフィンガー」にDB5を登場させた時、アストンはあまり乗り気ではなかったというが、いまや史上もっとも成功した映画出演のひとつに数えられているほどだ。
「ノー・タイム・トゥ・ダイ」のためにアストンではスタントカーの制作と提供を行っているが、DB5やその他のより新しいモデルを映画に登場させるために、製作会社には一切お金を支払っていないという。
レプリカの制作コストは明らかにされていないが、アストンのある幹部によれば、この映画出演がもたらす宣伝効果を考えれば、「信じられない程わずかな額」とのことだ。
この関係が出来るだけ長く続くことを祈っている。
番外編:イタリアでの撮影
「ノー・タイム・トゥ・ダイ」におけるDB5の登場シーンのほとんどがイタリアのマテーラで撮影されている。
この荒々しい石灰石に囲まれた街を舞台に、1990年代のマセラティ・クアトロポルテや2000年代初頭のランチア・テージスといった、敵が乗るさまざまな車両を相手に派手なカーチェイスを繰り広げているのだ。
元英国ラリーチャンピオンのマーク・ヒギンズは、エーススタントドライバーとしてシリーズ前3作にも参加しており、いまではアクション満載の正確なドライビングを披露することの出来る最高のスタントドライバーのひとりとされている。
わたしが訪問した日には彼が関係する撮影は予定されておらず、ほとんどが敵に追い詰められた後、DB5が銃弾を受けるシーンに充てられていた(ネタばれ注意だ)。
それでも、ヒギンズは常に準備を整えており、クローズアップのシーンで主演のダニエル・クレイグに見えるよう、デジタル処理を簡単に行うためのメイクアップを慎重に施していた。
マテーラの滑り易い石畳は大きな課題であり、ヒギンズ自身、最初にこの地を訪れた時には、「本当に大丈夫か懐疑的」だったことを認めている。
そして、この課題への解決方法が炭酸を含んだコーラであり、大量の糖分を含んだ5万ポンド(万円)相当のコーラを路面に噴霧することで、グリップが50%向上したと言う。
「派手に見せてくれるので、リアのグリップは問題ではありませんでした」とヒギンズは言う。
「ですが、グリップが無ければスピードを出すことが出来ず、スピードが足りなければスタントどころではないのです」
映画の撮影で求められるスタントドライビングのコツは、同じような動きを繰り返すだけでなく、あまりにも動きが滑らか過ぎないことだとヒギンズは言う。
「問題は求められるドライビングと、わたしが最高だと思う運転とがまったく異なる場合があるということです」
「ドリフトのシーンで素晴らしいドライビングが出来たと思っても、映画ではリアルに見えないことがあります。滑らかな運転よりも派手でぎこちない挙動が求められることがあるのです」
「ドライバーとしては納得できないこともありますが、わたしがここにいる理由は要求に応えるためなのです」
ヒギンズはDB5のラストシーンを非常に見応えのあるものだと言う。
ヘッドライトに仕込まれた銃は、初代ボンド時代のマシンガンから、マルチバレルの小型銃へと飛躍的な進化を遂げており、見事なフルパワーのドリフトで周囲の敵をなぎ倒すシーンはまさに圧巻だ。
「台本を読んだ時には、まさにジェームズ・ボンドだと思いました」とヒギンズは話す。