【ブガッティT55に乗って56年】フィゴーニ社製ボディの麗しいレーサー 後編
公開 : 2020.03.22 16:50 更新 : 2020.12.08 10:55
22年ぶりのグッドウッド・ハウス
この計画に強い賛同を得たことで、2019年秋の美しい日にリッチモンド公爵の邸宅、グッドウッド・ハウスへとフィゴーニ・ボディのブガッティ・タイプ55がやってきた。カルティエ・スタイル・エ・ラックスでの受賞から22年ぶりとなる。
ジェームズ・ワイアットの設計による、パッラディーオ建築の前に佇むブガッティ。まるで故郷に帰ってきたかのように見える。
リッチモンド公のスケジュールはいっぱいだったが、ブガッティ・タイプ55で走る思いは強かった。幼い頃からブガッティに魅了されてきた彼は、2000年にタイプ51を有名なヒルクライム・レースで試乗している。
「グッドウッド・フェスティバルに祖父たちと来るのが大好きでした。8才の頃、グレートカーズという本を買ってくれたんです。イースターホリデー中、ずっとその本にあったブガッティの絵を描いていました。今でもわたしを虜にします」 と振り返るリッチモンド公。
フェスティバル・オブ・スピードやリバイバルなど、グッドウッドでは注目イベントを何度も開催している。2014年には、過去最大級のブガッティだけを集めたミーティングも開かれた。
すでに次の世代のファンも形成している。「3才の孫も、ブガッティが大好きなんですよ」 リッチモンド公はフィゴーニ・ボディのタイプ55の周りをゆっくりと歩く。細部までエレガントな姿に見とれているようだ。
空中に響くドライなエグゾーストノート
「ボディシェイプは絶妙ですね。本当に流れるようなラインです。低いフロントガラスは完璧な仕上がり。1932年のホッドロッドのようにも思えます」 フィゴーニが生み出したボディのプロフィールをなぞるように手を動かす。
ベンチシートを覗き込む。グッドウッドの舗装へと踏み出す番だ。ゼンマイのようなキーを回し、直列8気筒エンジンは即座に目を覚ました。興奮するようなサウンドがあたりを包む。
「アクセルペダルのレスポンスは非常に良いです。エンジンが奏でるサウンドの和音も素晴らしい。ブガッティのエグゾーストノートに似たものは、他にないでしょう」
運転席の足元は狭いが、リッチモンドは細身の靴で備えていた。アクセルペダルの位置が中央なことに驚いている。
練習走行を終えると、ヒール&トウに適したペダルレイアウトや、操縦性のフィーリングの良さに感激していた。特に、軽く短いクラッチペダルの動きが良かったようだ。
逆にゲートが切られたトランスミッションに慣れた頃、1速へつなぎグッドウッド・ハウスの砂利道を一周。それからアスファルトへと出た。すぐに2速へシフトアップし、ブガッティ・タイプ55は丘を加速しながら登っていく。
モレコム・コーナーへと続く並木道へ姿は消える。張りのあるドライなエグゾーストノートが空中に響く。