【ブガッティT55に乗って56年】フィゴーニ社製ボディの麗しいレーサー 後編

公開 : 2020.03.22 16:50  更新 : 2020.12.08 10:55

驚くほど強いクルマとの一体感

しばらく走りを楽しむと、ブガッティ・タイプ55は戻ってきた。ハニカム状のラジエターコアには落ち葉が引っかかり、艷やかな黒いボディは少し汚れている。

「素晴らしい走りでした」 リッチモンド公がエンジンを切りながら微笑む。「ステアリングは、わたしが以前にドライブした、ブガッティ・タイプ51グランプリカー並みにシャープで軽快ですね」

ブガッティ・タイプ55(1932年)
ブガッティ・タイプ55(1932年)

「エンジンはとてもスムーズで、回転域を問わず鋭く吹けます。トルクも素晴らしい。変速は、わたしのAC16/80よりずっと速くこなせます。クルマと強い一体感を感じられることに驚きました」

忙しい日常の合間の、わずかな喜び。リッチモンド公が楽しめる時間は終わってしまった。ヒストリック・レーシングカーを専門とするダン・セットフォードがトレーラーを運んで来るまで、筆者はタイプ55を夕暮れの中で鑑賞する。

やって来たセットフォードが話した。「次のオーナーが、ちゃんと走らせることを願いたいですね。多くの素晴らしいクルマが、コレクターのガレージに保管されたままです」

素晴らしい午後。わたしの手でブガッティをドライブして、サウス・ダウンズの丘まで目指せないことが残念。セント・ジョンが妻のリタとともに楽しんだルートなはず。彼なら、優しい光のシンチラ製ヘッドライトを灯し、闇夜が迫るチェッドワースの自宅への道を急いだだろう。

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