【早すぎた流線形のボルボとデ・ソト】斬新なエアフローとPV36カリオカ 前編
公開 : 2020.04.12 18:50 更新 : 2020.12.08 11:05
多くの人に受け入れられなかったデザイン
理にかなった設計のエアフローは、1934年のニューヨーク自動車ショーで発表。クライスラー・ブランドは直6と直8エンジンを搭載。デ・ソトブランドにはひと回り小さい3956ccの直6エンジンが選ばれた。
初めの反応は良かった。ブリアーによれば、自動車ショーの中で過去にないほど多くの注文を集めたという。しかし、エアフローの生産には時間がかかった。先進的なマルチスポット溶接を実現する生産機械の開発には、時間が必要だった。
クロームメッキが施されたチューブラーフラームのシートを作るには、工場のスタッフへ技術を習得させる必要があった。加えてサプライヤーはストライキを強行。
1934年4月に生産が始まるまで、ライバルメーカーの対抗キャンペーンもあり、多くの潜在バイヤーがエアフローから離れていった。初期不良も、少なからず影響しているだろう。
検証と実験が生んだクルマの結果は、エアフローのデザインを多くの人が受け入れない、ということ。だが、カール・ブリアーはその事実を否定した。「ショーが終わった1月には、(両ブランドで)2万5000台のエアフローをオーナーへと引き渡しています」
「エアフローのスタイリングは、多くの人の賛同を得ました。スタイリングの悪い噂は、未然に防げたと考えています」 と、後に振り返っている。
ブリアーの意見はどうあれ、クライスラーは爪痕を残した。多くのメーカーへ、デザイン的な影響を与えた。米国ではボディデザインだけでなく、シャシーの構造やサスペンションなど、多くの面で参考にされた。
ディティールまで貫かれた流線形
そんな歴史的背景を持つ、英国では数少ない現存車両となるクライスラー・エアフロー。最も影響を受けたであろう1台、ボルボPV36カリオカと並べることで、価値も改めて見えてくる。
アダム・ムーディの1935年製エアフローは、アメリカではデ・ソト・ブランドのモデルだが、英国では組立工場の都合でクライスラーと呼ばれている。フロントバンパーは、北米クライスラー仕様のトリプルバー・タイプが流用されている。
ムーディー家が50年に渡って所有しているクルマで、2度全塗装している以外、レストアは受けていない。前後でカーブする低いボディは堂々としており、細部の作り込みも見事。
フロントまわりは、クライスラー版では細いバーが立てに並ぶ、滝のようなグリルを湛えているが、このクルマには1935年仕様のデ・ソト版グリルが付いている。アールデコの傑作といえる。
3本バンパーの中央にはティアドロップ型の装飾が付く。大きく弧を描くボンネットの横には、ルーバーが幾重にも並ぶ。スプリット・ウインドウを強調するかのようなクロームのモール。ホイールのスパッツにはタイリッシュなエンブレムが飾られる。
ドアハンドルも流線形。クライスラーのロゴがハブキャップに入り、飛び跳ねたガゼルのマスコットがフロントの頂上を彩る。テールライトを覆うのは、肉厚なクロームメッキのカバー。1930年代ファンにはたまらない、デザインミックスといえるだろう。
インテリアもボディデザインの流れを受ける。バウハウス調のパイプで組まれたシート。リアシートには小さなアームレストが添えられる。