ロードテスト ポルシェ718スパイダー ★★★★★★★★★☆
公開 : 2020.04.11 11:50
走り ★★★★★★★★☆☆
718系の最新トップグレードに、4気筒ターボに代えて新開発の自然吸気6気筒を積んだことで、ポルシェは982世代のボクスターとケイマンが登場した際の批判の元凶に向き合った。
もはや疑問の余地はないはずだ。このエンジン、さすがはGT部門の作品だと納得できるものがある。スロットルレスポンス、スムースさ、高回転域でのフレキシビリティとデリバリーのリニアさは、どれも息を呑むほどみごと。パティキュレートフィルターがあろうとなかろうと、そのサウンドはポルシェの偉大なるフラット6らしいものだ。
ところが、おかしなことだが、この718スパイダーを走らせる時間が長くなればなるほど、珠玉と思えたパワートレインにキズがあると確信するようになる。腹立たしいほど小さなことだが、うっとうしいことこの上ないそれは、ギア比の設定だ。
スパイダーの6速MTはGT4と同じもので、ギアボックスもファイナルもレシオに違いはない。さらにいえば、これは982系のMT車すべてで共通の仕様。つまりこれまでは、低回転域から十分なトルクを発生し、しかもきわめてよく回るターボユニットとの組み合わせだったわけだ。
ところがスパイダーとGT4は、最大トルクを得るために5000rpm、最高出力はレブリミットの8000rpm近くまで回さねばならない。せめて出足の鋭さを叶えるためにファイナル比だけでも落とさなければ、本当に速いと感じるにはかなりエンジンに鞭を入れることが求められるのだ。
さらに、エンジンの美味しい回転域を使おうとすると、3速でも130km/h近く出てしまう。さらに、4速なら225km/hに達する。しかも、その速度域にあってなお、あと2段もギアが残っているのだ。
それだけいえば十分におわかりだろう。一般的な道を高めのギアで走ると、このエンジンはややフラットに感じられる。そして、タイム面でも、日常的な条件に妥協してのドライビングでも、このエンジンは718スパイダーにあるべき速さを与えられない。8000rpmのレブリミットいっぱいまで使い切れる機会も、まずないといっていい。
今回のテストで計測されたパフォーマンスは、ポルシェの公称データどおりの数値で、立派という以上の成績だ。それでも、ギア比の設定が適切だったなら、0-97km/hで4秒を切れたに違いない。
もっとも、それを欠点だとするのは贅沢すぎる指摘かもしれない。エンジンもギアボックスも、全般的にみて間違いなく運転が楽しいパワートレインといえるものだ。
シフトのクオリティはガッチリしていながらなめらかなタッチで、欠点を補うに十分。エンジンは、6000rpm以上回すたびに味わい深さを堪能できる。それだけに、その楽しみを邪魔するギアリングだけが残念でならない。