【ツインカム・エンジンが放つ機能美】1928年製レーサー アミルカーC6 前編
公開 : 2020.04.25 16:50 更新 : 2020.12.08 11:05
公道向けに手直しされたレーサーは特別な魅力を放ちます。それは戦前のマシンでも同じ。ツインカムのアミルカーC6もまた、エキゾチックな輝きを持つ1台です。1928年生まれの貴重なマシンをご紹介しましょう。
戦前のツインカムユニットの美しさ
機械の説明図などを描く、テクニカル・イラストレーターのボブ・フリーマン。メカニズムの造形に強い関心を示してきた。
クルマに限らず、航空機用のロールス・ロイス マーリン製V型12気筒など、美しいエンジンは彼のアーティストとしてのマインドを鼓舞し続けている。このツインカムのアミルカーC6も、フリーマンがペンを取らずにはいられない、見事な造形をたたえている。
低く真っすぐ伸びたフランス製マシンのボンネットを開くと、見事なエンジンが顕になる。アミルカーのエンジニア、アンドレ・モーレルが設計した機能美は、フリーマンへこれまでにない影響を与えたようだ。
1100ccのレーシングユニットは、ローラーベアリング・クランクを備える固定ヘッドだったが、セミ量産版となるC6はデチューンされ、取外し可能なヘッドとプレーンベアリングへ変更されている。数多くのビンテージ・エンジンの中で、最も美しいものの1つだろう。
同じフランスの、ドラージュ社製V12気筒エンジンにも似たバンク構造で、カムシャフトはエンジン後方からギアによって駆動。ドラージュと違い、冷却フィンの付いたゾーラー社製のスーパーチャージャーがクランクケースの先に付いてる。
ドライサンプにダブル・オーバーヘッドカム(DOHC)の直列6気筒。ワークス仕様のアミルカーCOレーサーは84ps/5600rpmと公称されていたが、C6の方は62psだった。
車重は550kg、最高速度は160km/h
エンジンの搭載位置は充分に低く、軽量化の穴が穿たれたシャシーに、スッキリとしたドアレス・ボディが載せられている。ボンネット部分の高さは、840mmをわずかに切る。
オイルタンクがフロント部分の低い位置に挟まり、6-1レイアウトのエグゾーストが外側へ張り出す。いかにもレーシーだ。燃料タンクが収まるテールは、端正に絞られている。
セミ量産版のアミルカーC6の車重は550kgしかない。パリ郊外のモンテリーで1928年に行ったテストでは、160km/hに届いたという。
ドライバーとコ・ドライバーが座るのはドラブシャフトのすぐそば。アミルカーC6は、スケールダウンしたグランプリ・マシンのようでもある。
フランス・パリ北部、セーヌ・サン・デニスを拠点とするチームが生み出した、流麗なマシン。1920年代後半のヨーロッパでは、1100ccクラスを支配する強さを見せた。
筆者はこれまでも現存するアミルカーC6を高く評価してきた。ビンテージ・モンテリーやVSCCプレスコットなどのイベントで姿を見る度に、いつかはこの手でステアリングを握りたいと、強く思ってっきた。今その野望が叶おうとしている。
運転席のタイトな足元へ目を配ると、細身のシューズは不可欠。アクセルペダルが中央に付いている。
エンジンの状態をつぶさに知らせるように、ダッシュボードには9つのメーターが並ぶ。イエーガー製のレブカウンターは、カム1本ごとに2つ用意されている。
前オーナーのバーナード・ハーディングが手掛けたレストア時に、助手席の足元へ燃料流量計が追加してある。4スポークのステアリングホイールは、エレガントな3スポークへと変えられた。グランプリマシンのマセラティのようだ。