【ツインカム・エンジンが放つ機能美】1928年製レーサー アミルカーC6 前編
公開 : 2020.04.25 16:50 更新 : 2020.12.08 11:05
1920年代という古さの意識を覆す
ハーディングの素晴らしい采配で、オートバイのスロットルグリップをベースにした助手席側ハンドルが付けられた。バッテリークランプのワッシャーは、フラン硬貨に穴を開けて作られている。すべての部分へ細かい配慮がされ尽くしてある。
エンジンのスタートは、手動ポンプで燃料タンクの圧力を高めるところから。ガソリンが供給されたら、点火。スターターが追加され、フロントに伸びた始動用クランクを回す手間はない。
1100ccの小さなエンジンは、ギアやブロワーのノイズをかき消すように、元気な叫び声で目を覚ます。アクセルの操作には、鋭いサウンドで応える。
シフトノブをうかつに前へ倒すと、リバースに入ってしまう。1速を手探りで慎重に選ぶ。一度つないでしまえば、変速は楽しい作業。正確に速度を高めてくれる。
とても反応の良いエンジンは、コーナー進入の減速時にはダブルクラッチが必要。すぐ横のフィッシュテール・エグゾーストから放たれる排気音は、アミルカーだけのものだ。
シャシーのあらゆるコンポーネントがC6とのコミュニケーションを助けてくれる。ステアリングは扱いやすくダイレクト。後期型の油圧ブレーキは瞬発力があり制動力も強い。
10kmも走らないうちに、自在に操れる自信が湧いてくる。コーナーを抜ける度に、1920年代という古さの意識を覆してくれる。
アミルカーCOとC6は、低い着座位置とサラブレッドのような軽快な身のこなしで、1920年代に新たな基準を打ち立てたに違いない。細身の19インチタイヤを履くが、ハンドリングは驚くほどニュートラル。
1930年代を通じて示した高い競争力
ストレート6の扱いに慣れるほど、コーナリング・スピードも高まっていく。気張ってスピードが高すぎると、オイルタンクとブロワーが載るフロント重量のため、アンダーステアが顔を出す。全体の印象はロータス・セブンのようだ。
グランプリ・ドライバーだけが当時味わえたであろう、シャープなドライビングを体感できる。アミルカーC6の圧倒的な操る楽しみに浸る。
繊細なフィーリングが、質の高い設計を強調している。これほどの完成度であれば、1930年代を通じて高い競争力を示したのは当然だ。
バーノン・ボールズは7台のアミルカーC6を英国へ輸入した。当時の価格は725ポンド(9万7000円)。ブガッティ・タイプ37より200ポンド(2万7000円)も高く、販売が難しいことは明らかだった。ライレー・ブルックランズ・ナインの価格は、420ポンド(5万6000円)だった。
ボールズは、スターターとダイナモ、ライト、マッドガード、フロントガラスなどを備えた公道向けのロードカーとしてC6を注文した。通常より価格は更に高くなっていた。
一方でアミルカーは、C6でル・マンの出場を考えていた。だが、50台以上の生産台数という出場要件を満たせずにいた。
アミルカーC6は、ブルックランズでは活発に走り、極めて高速なクルマだということを示した。耐久性に関しては、不当に悪い評判もまとっていたようだが。
1927年10月に開かれた、名門のジュニアカー・クラブ200マイル・レースに、ボールズは3台体制で挑む。ワークス体制のサポートも受けていた。アミルカーとしては、夢の英国レースのデビューとなった。