【みんなのスポーツカー】ホンダS800 フィアット・スポーツ MGミジェット 後編
公開 : 2020.04.19 16:50 更新 : 2020.12.08 11:05
絶妙なバランスの世界観
ステアリングは素晴らしい。重み付け、レシオ、手のひらに伝わる感触のいずれもが完璧。このミジェットの場合、ポリウレタンのブッシュと太いアンチロールバーによって、フロントは強化されている。
いくつかのコーナーをクリアすれば、ミジェットが持つ絶妙なバランスの世界観が見えてくる。3台の中で、最高のハンドリングを備えている。
とても機敏に進行方向を変えていく。ほかの2台と同様に、ナーバスなところは一切ない。これより優れたハンドリングを望むなら、コーリン・チャップマンが生んだロータスに登場願うしかないだろう。
マイクのミジェットはかなり変更が加えられているから、オリジナル状態の2台と比べるのは不公平。しかし筆者の経験的に、どんなミジェット・スパイダーでも、魅了するほどに熱く走るという性格は、一貫していると思う。ストック状態でも変わらない。
標準のSUキャブレターによる1275ccは、中回転域でのトルクが太く、柔軟性が高い。しかし4000rpm以上回すと、吸気に息苦しさが出てくる。メカニカルノイズに慣れた人でも、聞き心地が良いとはいえないだろう。
だがマイクのミジェットは違う。1293ccのダウントン仕様とすることで、Aシリーズの能力を引き出している。質感を悪化させることなく、扱いやすさとアクセルレスポンスを向上。優しさの漂うシャシーを補うように活発だ。
小さなボディが生む想像以上に大きな興奮
4速MTもカシっと正確に決まる。トランスミッションからのノイズに、マフラーからゴロゴロとした元気なサウンドが重なってくる。4500rpmを超えると、吸気と排気の和音が、ドライバーの聴覚を支配してくる。
トップで3000rpmまで回せば80km/h、3300rpmなら96km/h。トルクバンドを活かせるから、激しく回転数を高める必要もない。
さて、どのクルマが一番良いだろう。答えは、完全に個人的な好みによると思う。
MGミジェットは、ただ楽しいだけではない。筆者のような英国人なら、運転する人を10代後半の若者に戻してくれる。難しい世の中にあっても、笑顔を忘れずに振る舞えそうだ。
何を優先するかで、順位は変わってくる。スタイリング、ハンドリング、エンジン。それぞれの1番がある。
3台に共通することは、ささやかなスペックからは想像できないほどの、大きな興奮を与えてくれるということ。小さなオープン・スポーツカーのどれもが、はるかに高価なエキゾチック・モデルを超えるスリルを、身近に楽しめるのだ。