【将来的な復活は?】アウディTT 新旧乗り比べ 感じるのは知性 前編
公開 : 2020.04.21 10:50
現行モデル限りでの廃止が発表されたアウディTTですが、強いインパクトを残した初代と最後のTTとなる3代目を乗り比べてみました。それぞれに素晴らしいこの2台ですが、なによりも印象的だったのはその知性だったようです。
偉大なデザインの力
見慣れたからと言って偉大なデザインの価値が損なわれるわけではないが、広く知られるようになることで変化がもたらされることは間違いない。
大ヒットしたからこそ、もはや初代アウディTTが街行くひとびとを振り返らせるようなことはなくなったが、それでもデビュー当時、注目度においてこのクルマはほとんどのスーパーカーを凌いでいた。
1999年当時、英国への正式上陸が始まる数カ月前にロンドン中心部を初期型TTクーペでドライブした時には、まるで宇宙船に乗っているか、お金をバラまきながら走っているかのような騒ぎであり、激しく渋滞するなか、反対車線を走っていたロンドンバスのドライバーは、このクルマの正体を知ろうと自らの職務を放棄したうえ、わざわざ車線を横断して近づいてきたほどだった。
キャッシュで払うからクルマを譲ってほしいとも言われたが、もしあの時このオファーを受け入れていたらアウディ広報とはタダでは済まなかっただろう。
4代目ゴルフとプラットフォームを共有していたにしては、決して悪くはないスタートだった。
だが、そんなTTもいまやその生涯を終えようとしているのであり、デビュー後6年目を迎えた3代目TTに直接的な後継モデルを登場させる予定はないとアウディでは話している。
流行に敏感なひとびとの人気はクロスオーバーモデルへと移っており、TTがその役目を終えたことは間違いない。
だが、だからこそTTと、いまや過去のものとなりつつある「毎日乗ることの出来るスタイリッシュなクーペ」というジャンルを振り返るのに相応しいタイミングだと思ったのだ。
純粋なスポーツカーには非ず
既存のパーツで創り上げたモデルだなどと言えば、まるでTTを侮辱しているように聞こえるかも知れないが、決してそんなつもりはない。
逆にそれがTTの強みであり、このクルマは決して妥協なく走りを磨き上げた純粋なスポーツカーではなかったのだ。
事実、つねにTTはそうしたスポーツカーとの比較テストでは彼らに一歩及ばず、アウディは悔しい思いをし続けて来たに違いない。
だが、ポルシェ・ボクスターとケイマンを除けば、TTはもっとスポーティーなライバルを販売台数で凌ぐだけでなく、その多くのモデルよりも長寿を誇ってもいる。
こうした人気の秘密は、使い勝手に優れたテールゲートと4つのシートと言う、ハッチバックのプラットフォームがもたらす実用性の高さにもあった。
TTであれば自転車を積み込むことが出来るとともに、小柄なパッセンジャーならドライバー以外にふたり以上の人間を運ぶことも可能だった。
TTの成功には多くのひとびとが貢献しているが、このクルマには数多くのデザイナーも関与している。
なかでも大きな影響を及ぼしたのが、1995年にオリジナルスケッチを描いたフリーマン・トーマスと、それを量産モデルへと反映させることに成功したペーター・シュライヤーのふたりだ。
そして、革新的なキャビンデザインを担当したロムルス・ロストも忘れる訳にはいかないだろう。