【小さなロールス・ロイスが目標】トライアンフがベースのパンサー・リオ 後編

公開 : 2020.05.03 16:50  更新 : 2020.12.08 11:04

当時の小型車としては例のない静かさ

気品高くレザーで縁取られたセンターコンソールには、ジャガーXJ6シリーズ2のボタンやスイッチ類が流用されている。ハンドブレーキの位置は深い場所にある。パワーウインドウのスイッチは、ジャガー420Gやダイムラー・リムジンに使われていたものだ。

手動のチョークは、ブリティッシュ・レイランド水準の貧相な装備。リモートで開く燃料の給油口は、コーチビルドの技が活かされている。

パンサー・リオ(1975年−1976年)
パンサー・リオ(1975年−1976年)

ボルグワーナー製のATは、リオの性格に良く合っている。変速はスムーズで、望んだ通りにクルマを前へ進めてくれる。

エンジンは中回転域でのトルクが太く、サウンド的には今ひとつながら、軽快に吹け上がる。防音材が追加され、静寂な車内という印象が強く残る。

エンジンやタイヤ、サスペンションが発するノイズは抑え込まれている。当時のコンパクトカーとしては例のない静かさだ。

パワーステアリングは付かないが、コンパクトなリオには必要ない。肉厚で握りの良い特注のステアリングホイールは、軽快で正確にフロントタイヤの向きを変えてくれる。

パンサーはフロントタイヤのキャンバーとトー角を独自に調整し、ハンドリング特性をドロマイトより穏やかにしている。ドロマイト・スプリントに乗ってからだいぶ時間が空いているから比較はできないが、リオの方が接地感が強く、柔らかく走るように思う。

セミ・ハンドビルドのサルーンは、結果的に寂しい運命をたどることとなった。控えめな威厳を漂わせるような見た目には、今なら好感が持てる。

ロンドンのペントハウスには不釣り合い

小さなニッチモデルに終わったとしても、普通とは一味違う豪華に着飾ったモデルとして、記憶に残る存在ではある。クラシックな風貌をまとった、デビルやJ72とは対照的でもある。

1930年代のグラマラスなクルマのスタイリングを、ハンドビルドで再現していたパンサー。1970年代に登場した、デビルやJ72のけばけばしい見た目は、時代錯誤といえるものだ。

パンサー・リオ(1975年−1976年)
パンサー・リオ(1975年−1976年)

筆者はそんなパンサーを思い浮かべると、クルマ自体ではなく、着飾った女性がカクテルバーにいる様子が連想されてしまう。それとは反対に、モダンな雰囲気を持っていたパンサー・リオ。

今の時代でも、どんなオーナーがどんな姿でドライブするべきか、想像するのは難しいのだった。ロンドン中心部のペントハウスに、彼女が不釣り合いなことは確かだ。

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