【貴重な成功物語】英国製カローラの故郷 トヨタ・バーナストン工場を訪問 前編
公開 : 2020.05.02 18:50 更新 : 2021.01.28 16:58
英国で新型カローラの生産を行っているトヨタのバーナストン工場を訪ねました。ブレグジットに続いて新型コロナウイルスの影響から苦境にある英国自動車産業にとって、この工場は貴重な明るい話題となっているようです。
まるで禅寺の落ち着き
新型コロナウイルス感染拡大が車両生産にまで影響を及ぼす以前から英国自動車産業は苦境に立たされていたのであり、急速な技術革新や政治的対立、将来の経済不安や販売減などにより、投資の急減や雇用消失、工場閉鎖に見舞われていた。
さらに、英国にはEU離脱やその他多くの不安要素もあるが、今回ご紹介するのはそんな暗い話題ではない。
巨額の投資を受けて生産量を増加させるとともに、英国製造業が世界レベルの実力を備え得ていると証明することに成功した工場の物語であり、混乱した英国自動車産業において、ダービーシャーにあることを除けば、この工場にはまるで日本の禅寺のような落ち着きが備わっている。
トヨタ・モーター・マニュファクチャリングUK(TMUK)がカリーナEの生産によってバーナストン工場の操業を開始したのは1992年12月のことだった。
以来、この工場では刺激はなくとも高い信頼性を誇る歴代アヴェンシスやカローラ、オーリスといったモデルを創り出すことで活況を呈してきたが、それでも決して工場として最高の評価を受けて来たわけではなかった。
だが、昨年オーリスがふたたび若々しさを取り戻した新型カローラへとモデルチェンジすると、このクルマは大ヒットを記録している。
2019年、英国全体の自動車生産台数が14.2%減少した一方、バーナストンの生産台数は14.7%も増加しており、14万8106台のカローラがこの工場からオーナーのもとへと送り出されている。
大きく進歩
だが、この原稿執筆時点で、バーナストンは英国や世界中にある他の工場と同じく車両生産を停止しており、2020年は出荷台数減を覚悟する必要があるだろう。
それでも、こうした影響を評価するには時期尚早であり、いまは明るい話題に注目しよう。
取材のためにバーナストン工場を訪れたのは3月初旬だったが、この時点で「ソーシャル・ディスタンシング」という言葉が意味していたのは、握手を控えることと、いつもより他人との距離を確保するということだけだった。
当時はフル生産が続いており、2600名のスタッフが2交替のシフトで新型カローラを89秒に1台創り出していたのだ。
そして、このスムースな生産体制を管理しているのが、TMUKトップのジム・クロスビーだ。
クロスビーがTMUKのトップに就任したのは今年1月のことだが、彼はトヨタで19年間を過ごしており、バーナストンを皮切りにチェコとディーサイドのエンジン工場でも働いている。
つまり、彼は生産量と経験値の両面でバーナストンが成長する姿を長年見続けて来たのだ。
「バーナストンは稼働開始から30年近くになりますが、われわれのスキルや知識、能力といったものは大きく進歩しています」と彼は言う。