【フォードからロールス・ロイスまで】芸術的な英国のクラシック霊柩車 前編
公開 : 2020.05.10 07:20 更新 : 2020.12.08 11:04
サイドガラスを外すとルーフが重さで陥没
古く珍しいクルマのレストアは、数え切れないほどの挑戦に直面することになる。メカニカルな部品の構成はシンプルで、クラブが所有するストックで足りたという。
コルチナ最大の障害は、いくつかの部品がオリジナルから交換されていたことだった。レストアには、想像力と創造力も必要となった。
「金属や木製の部品の作り込みは良いとはいえず、パテや塗装でごまかしてありました。現在のリアデッキは床板材で作られていますが、剥がすのは簡単ではありませんでした」 ディーンが振り返る。
サイドガラスを外すと、ルーフの重みで陥没することもわかった。レストアを進める前に、手をつける部分を整理し、順番立てることが必要だった。
もう1台、彼らのコレクションに含まれるフォードが、1974年式のコンサルGT。エセックス工場製のV6エンジンを利用するリムジンや霊柩車を作る手段として、当時としては最も費用対効果に優れたモデルだった。
コーチワークを手掛けたのはコールマン・ミルン社。1953年、ジョン・コールマンとロデリック・ミルンがランカシャーに設立し、ロンドン・ダグナムへ霊柩車を納めるようになった。現在はメルセデス・ベンツを用いて製造している。
コールマン・ミルン社は、3種類のホイールベースと2種類のルーフ高を用意していた。この霊柩車は、フラッグシップの1例だといえる。運転手の他に、付添人3名も乗れる。
V6エンジンとATで走りはスムーズ
ベース車両がコーチビルダーのワークショップに着くと、ボディーはシャシーから分離。シャシーは、ホイールベースを長くするため延長された。
ボディは補強用の金属フレームが内側に入る、FRP製の一体型に置き換えられた。見た目はオリジナルのコンサルを保っているが、ダブルデッキと一段高いルーフを備えているのが特徴だろう。
道を走らせれば、名高いV6エンジンと滑らかなATの組み合わせで、とてもスムーズに運転できる。充分にスピードも出せるし、ハンドリングも良いから安楽だ。
サスペンションはコールマン・ミルン社独自の、レートを高めたもの。霊柩車の一部には、エアサスペンションを備えたものもあった。
このクルマをディーンとサンドラが所有してから、5年目になる。「クラブの会員から購入しました。彼は霊柩車を、ほかに4台も持っているんですよ」
「このコンサルが、どの葬儀社に属していたのかはわかりません。フロント付近に事故の修復跡が残っていますが、基本的にはオリジナルのままです。お金が許せば、再塗装をしたいところです」 と話すディーン。
運転席からフロントガラス越しに見る景色は、標準のコンサルGTと変わらない。だが、リアミラーを覗くと、すぐに何に乗っているのか思い出せる。ルーフは高く、ボディは長い。棺用のデッキが、肩の位置に広がっている。
この続きは後編にて。