【フォードからロールス・ロイスまで】芸術的な英国のクラシック霊柩車 後編
公開 : 2020.05.10 17:50 更新 : 2020.12.08 11:04
使われなくなったオースチンやフォード、シボレー、ロールス・ロイスをもとに、コーチビルダーが生み出した新たな生命。優れた経験と技術で、芸術的にすら感じる霊柩車として生まれ変わった、クラシックな5台をご紹介します。
ベルギーで生まれたカプリスの霊柩車
クラシック・ハース・レジスターが持ってきたもう1台、シボレー・カプリスの話も興味深い。1986年式のシボレー・カプリス・クラシックをベースにした霊柩車で、屋根には4つの行灯が付いている。霊柩車になったのは、海を挟んだベルギー。
英国にやって来たのは2003年で、この国では唯一、カプリスがベースの霊柩車となる。クラブのコレクションに加わったのは2016年。もともとは会員の所有車だったが、エステートに戻さず、霊柩車として保存したかったらしい。
このカプリスには、ディーンが日常的に乗っている。シボレー製のV8エンジンと、指で回せる軽いステアリングを高く褒める。デトロイト生まれのクルマを、もっと早く購入していれば良かったと話すほど。
大きいボディサイズは、どうにもしがたい。「全幅はこれが目一杯という感じです」
このアメリカ生まれのカプリスに乗っていると、変わった反応もある。以前、33才を迎えるカプリスに、日本車に乗った若いドライバーがシグナルレースを挑んできたこともあったそうだ。
フロントシートは、とても快適なベンチシート。集中ドアロックもパワーウインドウもない、素のシボレーという珍しい体験を味わえる。
このカプリスの過去も、ディーンとサンドラが調査を続けている。「ベルギーの霊柩車の多くは、ヴァン・ダンを始めとするコーチビルダーが作っていました。ステーションワゴンがベースです。装飾用の照明などは、複数の企業が用意していたようです」
必要なら100km/hくらいも出せる
対象的に、オースチンA60ケンブリッジがベースにした霊柩車の佇まいは控えめ。ボディはウッドオール・ニコルソン社によるもの。古くはオースチン・タクシーや1 1/2リッター・フェアレーンなどをベースにコンバージョンを展開してきた。
RPB葬儀社を営むロジャー・バイロムは、「英国西部、デボンのような町では目にすることがない、クラシックな霊柩車です」 と話す。
ナンバーYUL 241を付けるクルマは、英国に2台あるA60ベースの霊柩車の1つ。バイロムは2012年の1月に、廃車の状態で手に入れたという。
多くの部品は標準のものが使え、レストアは簡単だった。幸いにも、霊柩車にコンバージョンされている部分は状態が良く、部品交換も不要。だがバイロムは念のためサイドガラスを外した。
「サイドガラスは現物合わせの1点もので、とても慎重に作業しました。割りたくありませんでしたから」 と振り返るバイロム。
このクルマは最終型のA60ケンブリッジをもとにしている。そのことも、車体がしっかりしている理由だろう。見た目は1969年ではなく、1959年の雰囲気が漂う。
「運転しやすいです。必要なら100km/hくらいのスピードも出せます。霊柩車にとってみれば、充分な速さです」 バイロンは、リアのリーフスプリングをアップグレードしている。
「コーナーリングが苦手で、ボディロールもひどかったのです。車体後半が伸ばされ、オーバーハングも長いので、仕方ないことでした。ATはスムーズで、加減速も苦労知らずです」