【フォードからロールス・ロイスまで】芸術的な英国のクラシック霊柩車 後編
公開 : 2020.05.10 17:50 更新 : 2020.12.08 11:04
ドロップヘッド並の見事なコーチワーク
この霊柩車は、英国のテレビドラマにも登場する予定がある。「イベントで展示すると、多くの人から、父が以前A60に乗っていました、という反応がもらえます。街を走っていても、人の目を集めるようです」
そして最後の1台、1958年製ロールス・ロイス・シルバークラウドをベースにした霊柩車。サウサンプトンに住むジョナサン・テリーがオーナーで、ディテールが魅力的だと話す。誰しもがうなずくことだろう。
ジョナサンによれば、このクルマはウィルコックス・リムジン社によるコーチワーク。1948年に設立されたワークショップで、デイムラーDS420をベースにしたクルマを得意とした。
このロールス・ロイスが彼のコレクションに加わったのは、2015年。ほかにもファントムVIのリムジンも所有している。フルレストアは、ジョナサンが経営する葬儀社のガレージで行われた。
シルバークラウドは、今回の5台では最も多くの人の注目を集める。取材時も同様だったが、ほとんどの人は霊柩車という理由からか、あまり近づいてはこない。ジョナサンによれば、珍しいことではないそうだ。
シルバークラウドは、HJマリナーが生み出したロールス・ロイスのドロップヘッド並みの、見事なコーチワークが与えられている。リアデッキやルーフライン、テールゲートのガラスまで、すべての作り込みが美しい。
最初のオーナーは、パワーウインドウを装備しなかったようだが、素晴らしいデザインと技術、ボディワークの前では大した意味は持たない。「とても素晴らしいクルマです」 とジョナサンが話す。
芸術的と呼べるコーチビルダーの仕事
「独特のノイズとキシミが聞こえますが、走る度に素晴らしいと感じます」 滑走するシルバークラウド。人生の悩みから、開放されたようにすら感じられる。
1964年の自動車雑誌は、シルバークラウドについてこう記している。「より完璧な仕事へ取り組むために乗るクルマ」 それは、霊柩車でも当てはまる。
ディーンとサンドラが所有する車両は、ニューフォレスト葬儀社へ貸し出している。オースチンとロールス・ロイスも、葬儀社が所有する重要な現役車両だ。
戦後、シャシーとボディが別れた構造のクルマが減少し、モノコックボディが主流となった時代をも映している。お葬式に対する習慣や伝統も変化した。
「フラワーアレンジがルーフに添えられた霊柩車自体、少なくなっています」 バイロンが話す。日本でも以前は寝殿造の霊柩車が走っていたが、最近はほとんど見かけない。
サンドラが最後に付け加えた。「霊柩車のコレクションに対しての反応は、肯定的なものが多いです。多くの人が、デッキ周りなど内部構造にも興味を持ちます」
「古い霊柩車のオーナーがよく耳にする共通した感想は、ゴースト・バスターズのクルマみたい、というもの。どのクルマでも、同じような意見を聞きます。コルチナがベースの霊柩車でも」
「もちろん、あまり良い印象を持たない人もいます。ですが、一度じっくり見る価値はあると思いますよ」
霊柩車と聞くと、忌み嫌う人も少なくないだろう。しかし実際に近づいて、芸術的ともいえるコーチビルダーの仕事を目にすれば、考え方も少しは変化すると思う。