【進化を続けた伝説の1台】フェラーリ250テスタ・ロッサ ル・マンでの優勝 後編

公開 : 2020.05.24 20:50  更新 : 2021.08.05 08:09

買い物の足となったル・マン・レーサー

1961年以降のシャシー番号0774、フェラーリ250テスタ・ロッサは静かな余生を過ごしてきた。いかに独創的なクルマだったのか、誇示するかのように。

当時のオーナー、フォン・ノイマンはしばらくして、250TRをテキサス州のローズバッド・レーシングチームへ売り渡した。エンジンは降ろされ、1963年にクラッシュしたロータス19のシャシーへと組まれた。

フェラーリ250テスタ・ロッサ(1959年)
フェラーリ250テスタ・ロッサ(1959年)

その後チームは解散し、フェラーリ製のV型12気筒エンジンは地元の大学へ寄贈。0774のシャシーはアイルランドに渡り、ベントレー3リッターと共に、英国のフェラーリ・コレクター、アンソニー・バンフォードが買い取った。

彼は250LMのエンジンを0774のシャシーに載せ、走れる状態にすると、コリン・クラブがオーナーとなった。クラブは4年間に渡ってレースに参加。1973年のル・マンのサポート・イベントにも参加している。

オーナーのコリン・クラブは当時、この250テスタ・ロッサを妻が買い物に使っていたことを、自慢気に話したという。スーパーマーケットの駐車場に、ル・マンで優勝したフェラーリが停まっていたのだ。

1977年になると、所有者はポール・パパラルドへと交代。彼はシャシー番号0774に、入手した本来の12気筒エンジンを載せ直した。そして1960年代のマシンとして完全なレストアを仕上げるべく、マラネロへクルマを届けた。

神々しい存在感を放つテスタ・ロッサ

250テスタ・ロッサが仕上がると、パパラルドは2004年まで、ヒストリックカーのレースやコンクール・イベントに定期的に参加した。そして現オーナーが、そのあとを継いでいる。

シャシー番号0774のフェラーリ250テスタ・ロッサは、2019年のグッドウッド・リバイバルにも姿を表している。積極的に世界中のイベントへ、かつてのル・マン・レーサーを出展している。

フェラーリ250テスタ・ロッサ(1959年)
フェラーリ250テスタ・ロッサ(1959年)

今回の取材は、温かい快晴に恵まれた。英国バイチェスター・ヘリテイジが所有する小さなテストコースをお借りした。時折、滑走路を横切るグライダーが見える。

斜め上方に開く小さなドアを開いて、青い布張りのシートへ腰を下ろす。テスタ・ロッサの車内へ座ると、包まれ感が強い。メーターは大きく、クリア。潜水艦の中から、違った世界を見渡しているようだ。

ドライビングポジションは快適。ペダルとステアリングホイール、シフトノブは、あって欲しい位置に、正しくレイアウトされている。

スターターボダンを押す。セルモーターは少し不安を感じるほど長く回り、12気筒が一斉に爆発を始めた。何というサウンドだろうか。神々しい存在感を放つテスタ・ロッサが、気高さを自負するかのようだ。

250テスタ・ロッサは、すでにウォームアップが終わっている。1速へ入れ、短いテクニカルコースへと赤いボディを進める。エンジンの吸気弁を大きく開けられるのは、1つだけある短いストレート。

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