【クルマ選びの新たな指標?】「ゴルディロックスの原理」を知っているか ホット過ぎずクール過ぎず 前編
公開 : 2020.05.24 11:50
ゴルディロックスの原理というものをご存知でしょうか? もとは英国の童話に3匹のクマとともに登場する少女の名前でしたが、転じて適度な状態を表す慣用句となっています。今回はそんな原理にまつわるモデル選びのお話です。
ちょうど良いモデル
4.0Lエンジンを積んだ718ケイマンGTSでのドライブこそが、ゴルディロックスの原理の正しさを証明していた。
最近ケイマンGT4を走らせたばかりの同じコースでこのクルマのステアリングを握ったのは、ポルシェが誇るモータースポーツ部門によって創り出され高い評価を受けているモデルに、ノーマルのGTSがどれほど食らいついていけるかどうかを確認するためだった。
だが、実際に比べてみると、思ってもみなかったことが明らかとなっている。
予想外だったが、GTSはGT4と同じくらいのドライビングの楽しさを味わわせてくれたのだ。
公道でGT4の驚異的なグリップレベルを使い切るなど不可能であり、特にウェット路面であればGTSのほど良いタイヤ選択がもたらす見事なバランスと、その素晴らしい乗り心地に間違いなく感激することになるだろう。
では、GTSはステアリングのシャープさでGT4に劣るのだろうか?
両者の違いを認識するには交互に乗り比べる必要がある。
明らかにGT4のほうが速く、さらに素晴らしいサウンドを響かせているだろうか?
そして、その結果ドライビングの楽しさでもGT4の方が上回っているのだろうか?
そんなことはない。
ゴルディロックスの原理とは?
では、GT4はGTSよりも1万1000ポンド(144万円)も高価なプライスタグを掲げているのに、GTSよりも素晴らしいモデルになっていないと言うのだろうか?
もちろんそう言うことも可能であり、特別な日のためのクルマではなく、毎日乗ることの出来るモデルを探しているようなドライバーに対してであれば、間違いなくそうだと言える。
これがきっかけで、トップモデルが必ずしも最高の1台ではないかも知れないと考えるようになったのであり、GTSのようなモデルこそがホット過ぎずクール過ぎず、ちょうど良いモデルなのではないだろうか?
もちろん、こう考えたのはわたしが最初ではない。
実際、医療でも経済でも、科学の世界でもこうした考え方はゴルディロックスの原理と呼ばれ、広く普及している。
はるかに巨大でもっとも分かり易い例がこの地球であり、もし金星や火星に住もうなどと考えれば、われわれは途轍もないコストを支払わされることになるだろう。
そして、自動車世界にもゴルディロックスの原理が通用すると聞かされても驚くには値しない。
最速モデルが最高の存在ではない
もし自動車を設計するとしたら、どんなモデルを基本にするだろう?
エントリーモデルを基本にすれば、トップレンジを創り出すには数々の変更が必要となり、その逆もまた同様だ。
それとも、実用性に優れた中間グレードを基本に、それぞれエントリーモデルとトップレンジを創り出すだろうか?
だが、こうした中間グレードが市場の注目を集めることが出来るかどうかも考えておく必要がある。
さらに、最速モデルが最高の存在ではないというのには他にも理由がある。
先進素材を採用出来るだけの予算が無ければ、さらなるスピードが意味するのはつねに重量の増加だ。
ケイマンの例が示すように、ソフトウェアの変更だけでよりパワフルなエンジンを手に入れることが出来るのだから、こうしたケースはこれからも増えていくだろう。
よりパワフルなエンジンはより大型のブレーキとより締め上げたサスペンション、さらには単に幅を広げただけでなく、より高負荷にも耐え得るタイヤが必要となる。
つまり、より重くなるということであり、これがエンジン単体重量に変更はなく、さらには間違いなくヴァイザッハが最善を尽くしただろうにもかかわらず、ケイマンGT4がGTSよりも重量増を招いた理由となっているのだ。